産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-9

2016年07月


I.ばく露濃度等と対象物の有害性の程度を考慮する方法
化学物質による健康障害リスク評価は、労働者が対象化学物質にさらされる程度(ばく露量)と、当該化学物質の有害性の程度を考慮する方法があります。

化学物質による健康障害リスク=化学物質の有害性(ハザード)×ばく露量

ここで、化学物質の有害性(ハザード)は、その化学物質に固有の有害性(急性毒性、慢性毒性、生殖毒性、発がん性感作性等)であり、これらはSDS等に記載されています。

一方、ばく露量は、作業者の体内に取り込まれる化学物質の量であり、これは取扱量、濃度、接触の頻度、取扱方法等の作業実態によって異なりますので、当該作業でのばく露量を把握(実測・推定)することが必要となります。
ばく露量の把握の仕方には、いろいろな手法(具体例を順次説明)がありますが、実測値による方法が望まれます。

1.生物学的モニタリングを用いる方法
作業者の尿、血液、毛、呼気中の有害物又はその代謝物の濃度を測定し、ばく露量を把握する方法です。
この手法は、作業者がばく露する形態(吸う(経気道)、食べる(経口)、触れる(経皮)の侵入経路)の全てのばく露量の総計として把握できるという特徴があります。
また、作業者一人ひとりのばく露の状態がわかります。
保護具を着用していた場合は、その効果も含めたばく露量の把握ができます。

リスク評価は、代謝物測定値とBEI(Biological Exposure Indices ACGIH・米国産業衛生専門家会議の勧告値・生物学的ばく露指標)との比較で行います。
BEIは、著しい経皮吸収がある場合等では不正確になることがあります。
日本では生物学的許容値として、日本産業衛生学会によって基準値が決められています。

特殊健康診断(有機溶剤、鉛等)においても、個々人のばく露状況を把握するために生物学的モニタリング(代謝物測定)が採用されています。
特殊健診の場合は、測定結果の評価を3つの分布に区分 (分布1、2、3)して、労働基準監督署に報告しています。
この区分は、測定値がBEIを超えると分布3に、BEIの1/2から1/3までを分布2に、それ以下を分布3として制定されました。
その後にBEIは改訂されていますが、分布区分の見直しはされていません。

リスクアセスメントの場合の評価は、例えば、代謝物の測定値がBEIを超えると「許容できないリスク」と評価し、BEI以下をいくつかのリスクに区分し、必要な措置を講じるようにします。
BEI値は不確実性がある(新たな知見でより厳しくなる)ので、ばく露をできるだけ低く抑えるのが望ましく、BEI値の1/2、1/4、1/10等に対策値(アクションレベル)を設定し、より安全側で管理することが望まれます。

生物学的モニタリングでは、作業者一人ひとりのばく露量がわかりますので、作業環境測定結果と合わせますと、作業に伴う異常ばく露の有無がわかります。
例えば、作業環境測定結果は良いのに、代謝物測定で特定の人に高濃度のばく露が認められた場合は、その人の作業や作業方法に問題 (作業に伴う異常ばく露→作業位置、保護具、経皮吸収・経口摂取等) がないかを考え、必要な対処ができます。

生物学的モニタリングは、次の点に留意することが必要です。

(1) 化学物質の吸収量と代謝物との間に定量的な関係がある場合に、ばく露量の把握に用いることができますが、定量的な関係がない場合には使えませんので、使える対象物質が限られます。

(2) 生体試料の測定には、個体差がありますので、留意が必要です。

(3) 代謝物は、作業によるばく露以外の要因による影響を受ける場合がありますので、これらの要因に対する事前のチェックが必要です。
例えば、飲食物の影響が出る場合があります(トルエン-馬尿酸における安息香酸飲料等

(4) 尿や血液の試料採取時期は、生物学的半減期を考慮した適切な時期とすることが必要です。

次回からは、化学物質の気中濃度等を用いた方法を説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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