産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-10

2016年08月


先月は、ばく露量の把握として、化学物質の人体への侵入経路の全て(経気道、経口、経皮)のばく露量の総計が把握できる「生物学的モニタリング」を用いる方法について説明しました。
この方法は、化学物質の吸収量と代謝物との間に定量的な関係がある場合にしか用いることができず、対象物質が限られます。
そこで、今月は、「気中濃度の実測値」を用いる方法を紹介します。

2.「気中濃度の実測値」を用いる方法
個人ばく露測定、作業環境測定、検知管等による測定等の「気中濃度の実測値」を、「ばく露限界」等の基準値と比較する方法です。
これらの方法は、化学物質の体内侵入経路として最も多い「呼吸により体内に吸収される経気道ばく露」を対象にしています。
従って、作業管理が不十分等で、経皮ばく露、経口ばく露が考えられる場合は、これらのばく露にも留意することが必要になります。

(1)個人ばく露測定結果を用いる方法
作業者が吸気する空気中に含まれる化学物質の濃度を測定します。
個人に装着することができる試料採取機器(個人サンプラー)を用いて、作業者の呼吸域(センサーを胸等にセット)で測定した結果(個人ばく露測定値)と、「ばく露限界値」とを比較し、リスクを評価します。
個人ばく露測定は、欧米では広く使われており、ばく露量測定の基本的な方法です。

リスクの見積りは、個人ばく露測定結果とばく露限界を比較し、個人ばく露測定結果が、ばく露限界を超えている場合は、リスクが許容範囲を超えていると判断し、直ちに措置を講じなければならない高いリスクがあるとします。
個人ばく露測定結果が、ばく露限界を超えていない場合は、リスクは許容範囲内にあるとしますが、ばく露限界値は不確実性があるので、ばく露をできるだけ低く抑えるのが望ましく、ばく露限界の1/2 1/4 1/10 等に対策値(アクションレベル)を設定し、より安全側で管理することが望まれます。

「ばく露限界」には、日本産業衛生学会の許容濃度→(1日8時間、週40時間程度のばく露で、殆ど全ての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度)ACGIH(米国産業衛生専門家会議)のTLV-TWA→(8時間加重平均濃度)、等があります。

個人ばく露測定によるリスクアセスメントは確実性が高いが、許容濃度が設定されていない化学物質では、評価するときに比較対象がないため専門的な知識が必要になります。

(2)作業環境測定結果を用いる方法
安衛法に基づく作業環境測定が義務付けられている作業場では、この測定結果を用いて見積もることが最も身近な方法です。
自主的に作業環境測定を実施している場合も同様です。
リスクの見積りは、作業場内の平均的な濃度分布である「A測定の結果」と「管理濃度」との比較で行います。
作業場での個々の作業者のばく露量は、作業内容や作業場所が異なれば大きく変わりますので、作業環境測定によるリスク評価は、前記の個人ばく露測定よりは、精度が低くなります。
移動・固定・間欠作業等、発生源近くの高濃度ばく露を把握するB測定の結果がある場合は、これを使うと、安全サイドで管理できます。

リスクの見積りは、次のように測定結果の評価に応じて、管理区分ごとに、リスクを「高」「中」「低」の3つに区分する方法もあります。

(管理区分)   (リスク)       (措置)
第3管理区分    高   直ちに対応すべきリスクがある
第2管理区分    中   計画的に対応すべきリスクがある
第1管理区分    低   必要に応じ対応すべきリスクがある

しかし、作業環境測定の管理区分には、化学物質の有害性と作業者個人の暴露量が十分には反映されておらず、リスクアセスメントとしては精度が低くなります。
(管理区分を決める基準値の「管理濃度」は、作業場の管理として、作業環境の気中濃度を行政的な見地から決めたものです。又、ばく露時間的な概念もありません)
管理区分に基づいた作業環境改善は法的に当然必要です。
しかし、リスクの見積りには、管理区分をストレートには使わずに、ばく露時間が加味された「実測値を用いた具体例(中災防方式→次回に説明)」等が望ましいと思います。

(3)検知管等による簡易な気中濃度の測定
簡易な測定方法を用いた場合は、測定方法により濃度変動等の誤差を生じることから、必要に応じ、適切な安全率を考慮する必要があるとされています。

次回は、「実測値を用いた具体例(中災防方式)」を説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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