産業保健コラム

廣瀬 一郎 相談員

    • カウンセリング
    • カウンセリングルームこころの栞 主宰カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般
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古い一冊からの新しい気づき

2016年08月


古い本箱の片隅にこれまた古い一冊の本を見つけた。表紙の題名には〈みんなのどうとく〉「心の物語」と書いてある。もちろん見覚えのある一冊であると共に忘れ去られた一冊であった。〈どうとく〉と「心」、この二つは不可分なものであることは頭では解っているが、この本の存在と同様に忘れていた。
あらためてページをめくってみた。日常のふとしたひとの優しさや歴史上の人物を通して書かれている幾つか物語の1つを少し長くなるが紹介してみたい。

「きえた紙くず」は5年生のたけし君とのやりとりを書いた6年生の担任の先生の投稿文のようである。

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〈わたしは、いつまで続くかなぁ、と見守っていました。今までもいく日か手伝う子どもたちはいたのですが、だいたいが三日坊主でした。
1週間が過ぎて、いつものようにがんばっているたけし君に話しかけました。

「えらいね、たけし君。でも紙くずがちっともなくならないね。」
「毎日、毎日拾えば、なくなるがあ。」
「たけし君が毎日がんばっても、風が運んできたり、友だちがすてたりするから、きれいにならんよ。どうする。」
「きれいになるまで、拾えばいいよ。みんながすてたら、どんどん拾えばいいがあ。」

(すごいな。)ノックアウトされた感じです。なんときれいなことばでしょう。散らかした人や、ふきまくる風など気にもせず、みんながすてなくなるまで、拾いつづければいい。こんな大きな、美しい心をたけし君はもっていたのです。わたしは今まで、よごす人をうらんだりおこったりしていました。
たけし君に比べて、せまい考えしかできなかったじぶんが、情けなく思えてなりませんでした。さっそく、先生方と話し合いました。すてる子を注意するよりも、すてなくなるまで拾いつづける子を育てようと。抜粋〉
(5年生のたけし君の行動は、6年生の紙くずゼロ作戦に広がりました。)

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このたけし君の自発的で損得勘定のない、純粋なこころが生む、周囲へ影響力の一節を読んでカウンセラーを仕事とさせて貰っている私にはカウンセリングでの傾聴場面が思い起こされた。聞いてあげるのではなく、自発的に聴かせてもらい続けるのだ、そして話させるのではなく語ってもらうのだと。

私が、クライアントの心が浄化されるまでひたすら聴くに徹することが、積極的傾聴であろうことをあらためて再認識した一冊一文であった。こころとカウンセリングと道徳は強い絆で繋がっているのである。

■引用文献;金井肇監修 『みんなのどうとく』編集委員会編者(2003)
「これが最新 みんなのどうとく 心の物語」株式会社学習研究社

産業保健相談員 廣瀬 一郎(カウンセリング)

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