産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
  • ←記事一覧へ

「職場における受動喫煙防止対策」~禁煙できますか?精神科的見地から~

2017年02月


 平成12年に国民健康づくり運動として「健康日本21」が開始され、医療制度改革の一環として平成14年に「健康増進法」が成立しました。病院や公共施設のほか、事務所その他多数の者が利用する施設を管理する者は受動喫煙防止対策を講ずるように求められました。平成8年に策定された「職場の喫煙対策のためのガイドライン」は、平成15年に改正され、より一層の職場の受動喫煙防止対策が進められています。

 平成26年改正労働安全衛生法により、平成27年6月1日から労働者の受動喫煙を防止するための適切な措置を講ずることが事業者の努力義務とされました。
 第12次労働災害防止計画では、平成29年までに受動喫煙を受けている労働者の割合を15%以下にするという目標が掲げられました。
 労働者の健康を守るためにも、快適な職場づくりの為にも、各事業場において積極的に受動喫煙対策・労働者の禁煙指導に取り組んで頂きたいと思います。

 さて、あなたや周囲の方々は「禁煙」できていますか?そもそも、煙草を吸う行為は、20歳以上であれば法律に触れるわけではありません。未成年や法律で禁煙と定められた場所や時間で喫煙した場合には、医学的に「乱用」と呼びます。精神医学領域では「タバコ使用による精神及び行動の障害」もしくは「タバコ関連障害群」という疾患概念があります。以前は、ニコチン依存症と呼ばれておりましたが、近年では「ニコチン」そのものの精神依存形成能は強くないことが判っています。実際に長期間喫煙を続けたとしても精神病的な状態に陥ったり、人格変容を来したりすることはありません。
 そこが、アルコールや覚醒剤などの他の依存性物質と決定的に異なる点です。
 いわゆる「中毒」症状が出現することはありません。

 それでは何故禁煙が難しいのでしょう。実はニコチンを摂取することにより、脳内の報酬系と呼ばれる神経回路のドパミン濃度が高まることが原因です。
 一時的に気分が良くなり、注意力が高まります。その経験を繰り返すことで、脳が「心地良いもの」として認識してしまい、タバコを欲するのです。ですので、「もうニコチン中毒だから、今更止められないよ」などの言い訳は成り立ちません。止められるのに止めないだけです。

 喫煙の健康リスクは、虚血性心疾患や肺気腫、肺がんなどであり、精神症状ではありません。タバコを吸う事で身体が冒されるリスクを承知の上で、やめないことが精神科的問題になるのです。また、受動喫煙により、周囲に流涙や鼻閉、頭痛等の生理的諸症状を引き起こさせ、肺がんや冠動脈心疾患等のリスクをも増加させると言われます。大切な家族や仲間のために禁煙をお勧めします。

最後にクイズです。

Q、何もする必要はありません。あなたは、単純にどちらを選びますか?

A、今すぐ1万円をもらえる
B、1年後に2万円をもらえる

あなたは、どちらを選びましたか?これは、遅延報酬割引という心理機制をみるものです。衝動欲求がいかに抑えられるかが、ポイントです。
喫煙者の多くはAの回答を選び、非喫煙者と元喫煙者(禁煙できた)はBの回答が多いことが分っています。「大きな報酬を長く待つ」ことが出来る性格傾向が禁煙達成に関与するとされます。将来を見据えて禁煙をしましょう。

産業保健相談員 牧 徳彦(メンタルヘルス)

記事一覧ページへ戻る