産業保健コラム

田中 朋子 相談員

日常の風景から「気づき」へ

2018年01月


お正月には凧あげて、独楽を回して遊びましょ

 「七連凧」を買ってもらい広場へ駆け出して行った孫が木陰でもじもじしています。近寄ってみると、見事に七連の凧が絡んでいるではありませんか。「何やってるのよ!」との思いを呑み込み、「絡まったん、一緒に直そう!」と声をかけると、困ったような顔で、凧を持ち上げました。一人で何とかしようとして、余計にこんがらがった形跡の凧に、私の頭の中では「もう、これ無理なんじゃないの、買ったばかりなのに…。また、買うの?」などの思いがぐるぐるまわっています。けれど言葉では「ここをくぐらせて」「ここを持ってて」など指示しながら悪戦苦闘の末、何とか目途がたってくると孫の顔にも笑顔が浮かび始めました。やがて青空に七連の凧が誇らしげにあがっている光景は、本当にお正月だなー、でした。

 弟が「これ、壊れた…」と糸が切れた凧を持ってくると、お母さんは「大丈夫よ!」と、器用に糸をつなぎ直します。1年前には高く上げられず悔し泣きしていた弟も、今年は天高くあげています。子どもたちの成長を感じる一コマでした。翌日、糸が絡んだときは前日の経験から、自分でほぐしましたが、途中で断念、あとは親が引き受け回復させました。

 大人から見れば、凧を買い与えれば、何事もなく高くあがり、楽しかったね、が望ましいかもしれませんが、現実はいろいろな困難が起こります。その困難にどのように対処していくのか、を子どもたち自身が身をもって学ぶ機会は日常の中にたくさんあるのだと感じました。初日の体験が、翌日の状況に活きていますし、一人でできなくても、ここからはお願いね、という方法もあり、という経験にもなり、みんなで協力しての意味も実感できるでしょう。

 よく「経験を通して学ぶ」とか「失敗から学ぶ」とか口にしますが、自分のこととしてできているのか、と振り返ったできごとでもありました。木陰にいる孫を見て、どうしたんだろう?と思いながら近づき、その手にだらりとなった凧を見ると、私の中には、瞬時に「何やってるのよ!」の咎める言葉が浮かびました。その言葉は困っている孫をさらに追い詰め、怯えさせることになったでしょう。「いかん、いかん」と、その言葉を追い払い、一緒にほぐし始めました。一安心した孫も、私の指示に従ってくれました。何重にもこんがらがってしまった糸は、なかなかほぐれず「もうムリかなー、時間ばっかり経って…」という弱気が起こりながらも、ひとつひとつ丁寧にほぐしていくとゴールが見えてきました。「覆水盆に返らず」で起きてしまったことを叱っても元には戻りません。でも、自分の中のいら立ちや混乱がつい大きな声や表情、態度に表れてきます。その状況を受け入れ、どのように対処すれば、より良い状況に回復できるか、という思考が働けば混乱は消えるでしょう。

 元旦早々の一コマが、自分の自動思考への気づきをもたらしてくれました。

 糸をほぐしながら、こじれてしまった人とのコミュニケーションも、こうして丁寧に丁寧にほぐしていかないといけないんだな、と実感しました。そうとわかっていても焦ってしまったり、一足飛びに自分の気持ちを伝えすぎたり、お互いのペースが合わず、もとの木阿弥、のこともあるでしょう。そのときは、また謙虚に自分をふり返り、丁寧にコミュニケーションをとっていこう!と思っています。

 日々新たに、成長していきたいものです。

産業保健相談員 田中 朋子
(保健師、プラクティスド・コンサルティング・カウンセラー)

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