産業保健コラム

石戸谷 武 相談員

    • 産業医学
    • 前 聖カタリナ大学教授
      ■専門内容:心臓外科・循環器科・産業医学
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甲状腺ホルモンの話

2018年05月


ある事業所での会話:

年配の女性A:

「先日定期健康診断検査が終わり、個人票を見たら、コレステロールが高値 で、LDH値も高く、要治療とあったので、医者に行って見せたら、診察も話も聞かずに、{この薬を飲みなさい}と言って高脂血症薬をくれたわ。私はこのところ脚が冷たく寒いし、そんなに食べもしないのに体重が増えているの。それに、疲れたという感じが強いの。」

 

同僚の女性B:

「コレステロールが高いんなら、それで良いんじゃないの。それにしても、医者はパソコンの数値ばかり見ていて、こっちの顔も見ないんだからね。」

 

二人の会話を傍で聞いていた

 

眼がキラキラ見える若い女性C:

「あら、私はコレステロール値が高くなかったので安心したわ。このところよく食べているので高いかと心配して居ったけれども良かったわ。むしろ体重が減った位でした。Aさんは寒がりの様ですが私は逆に暑がりなのか、汗かきでね、困っております。ただ脈が速く、動悸が気になるんだけど。」

B:

「事業所の産業医のS医師にセカンドオピニオンを尋ねてみたら良いと思うわ。」

 

このAさん・Cさんからの話を聞いたS医師は次のような話をしました。

産業医S医師:

「出てきた検査結果や提供されたデータだけを見て判断し、目の前の患者さんの訴えを聞き・診察しないで結論を出す医師が多いのは困ったものですね。Aさんの場合も、Cさんの場合も、下した診断が全てか?それ以外は考えられないのか?必要なら別の検査もして、診断を100%のモノにしなければなりません。」と言って次の話をしてくれました。

●Aさんの場合:年配でもあるし頻度の高い【甲状腺機能低下症】も考慮すべきです。

●若い女性Cさんの場合:眼がキラキラと見え、動悸を感じ、首の前面が全体に腫れておれば【甲状腺機能亢進症(バセドウ病)】も考える必要があります。

そこで

・ 〇「甲状腺機能低下症」とは、

・  頻度の高い疾患(特に高齢者)です。

・  ・主な症状:1易疲労感 2寒がり 3浮腫、手が腫れぼったい

・  4皮膚の乾燥  5食べないのに体重増加  6便秘  7筋力低下

・  8嗜眠、記憶力・注意力低下などがある。

・  ・検査結果:1)総コレステロール、LDLコレステロールは高値   2)貧血

・       3)心電図で徐脈(脈拍数がゆっくり)

・       4)アミノトランスフェラーゼ、LDH,CK値が高い(肝臓・筋肉・心臓の細胞

・        が壊れるときに出る)

 これだけでは色々な疾患が考えられ未だ確定診断にはなりません。1)の数値だけ見て健康診断だからと言って生活習慣病を考えてしまうのは早とちりです。症状をよく聞いて、確定診断のために(1)高TSH (2)低FT4 (3)FT3の検査によって甲状腺機能低下症が確定します。

 

・ 〇バセドウ病(甲状腺機能亢進)では

・  動悸・甲状腺腫・眼球突出の3徴候の他に

・  ・主な症状として:1食欲亢進を伴う体重減少 2倦怠感、易疲労感

・  3活動性亢進、気分変調、不眠 4動悸、心房細動 5多汗(暑がり)

・  6排便回数増加、下痢  7筋力低下  8過少月経、無月経

・  ・検査結果:1)コレステロール値低下 (高くはない)

・   2)アルカリフォスファターゼ(ALP)高値:この酵素は肝臓はじめ各臓器に広く分布し、

・    障害を受けて修復の時に出てくる

・   3)AST,ALT軽度増加(<100 IU):肝機能障害時にでる

・   4)尿糖(+)

・   これだけでは確定診断にはなりません。

・・内分泌検査:(1)TSH低値  (2)FT4・FT3共に高値  (3)TSH受容体抗体(+)

・          (4)放射性ヨード摂取率30%以上 この内分泌検査により診断が確定します。

 事業所で行われる健康診断は検査項目数が多いわけではありませんが有用なものです。ただ検査数値の一部(コレステロール値の高・低数値)だけが独り歩きすると、結論が間違った方向に導かれることがあります。ホルモンは全身の身体機能調整に関わりを持ちます。その人の訴え・症状・検査結果を総合的に考える必要があります。

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