産業保健コラム

田中 朋子 相談員

「患者力」が必要な時代

2018年08月


 ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価し、活用(情報を使うことでより健康に結びつくような、よりよい意思決定を行うこと)する力ということができます。

 「情報を得て、意思決定する」と頭でわかっても、意思決定とは問題を解決するための行動ですので、実際には「わかっちゃいるけど…」ということになるかもしれません。そして情報とは「問題を解決するための選択肢を知り、それぞれのメリット・デメリットを評価するために必要なもの」ですが、自分の都合のよい部分だけ取り入るなど、偏りがみられることもあります。

 高度医療が当たり前になった社会では、私たちも「治癒か死」ではなく、病気と何十年にわたりつき合っていく、あるいは障がいを持って、それとどうつきあっていくかを考える必要がでてきました。インフルエンザなど急性疾患であれば完全に治る、回復するまでのプロセスも予測は立ちやすいのですが、慢性疾患になると個人差も大きく、またサポーターや環境にも影響されます。そういう状況では、医師をはじめとする医療職に任せてしまうのではなく「患者力」も重要です。病とともにどう共存していくか、そこには患者自らの選択、自己決定が不可欠なのです。

 そのためには情報を得る、その情報が自分にとって適切か否かの評価もできないと取り返しのつかないことになりかねません。医師と信頼関係をつくる。率直に話せる関係性、自分の人生観(どう生きるのか、どこで死ぬのか)を明確にする。その実現のために対話をしながら選択をしていく必要があります。

 平均寿命が60歳であれば、会社の指示通り働き、無事定年を迎え、旅行や趣味を楽しみながら余生を送る、という人生もありかもしれません。しかし、2018年7月に厚生労働省が発表した簡易生命表によると平均寿命は87.26歳(女性)、81.09歳(男性)と更新を続けています。また1963年には100歳を超えて生きている日本人はわずか153人、1998年に初めて1万人を超え、2010年には44,449人、2017年は67,824人となりました。こうした長い人生を生きる現代は、会社任せ、医者任せすることなく、自分で自分の人生をマネジメントしていかなければならないのです。

 よく耳にするのが「この薬(血圧降下剤やコレステロールを下げる薬)を飲み始めると、一生飲まないといけないんでしょう…」という質問です。血圧の薬は何のために飲むのか?血圧を正常に保つことにより、将来的に脳卒中や心筋梗塞、腎障害に陥るリスクを抑える効果があります。コレステロールや血糖値をコントロールするのも、そうした二次疾患に至らせないためでもあります。

 あなた自身が主体となり自らの人生を全うするために、医師をはじめとする医療職、理学療法士や作業療法士など身体のセラピスト、心理療法を行うこころのセラピストやカウンセラーなどのサポートを活用してください。

 「病気はあなたの肉体の故障であって、意志の故障ではない。その病気があなたの意志によって呼び寄せられたものならば別だけれども、足が不自由な人は、足が悪いのであって、その人の意志に故障があるのではない。何事かがあなたに起こるたびに、必ずこのように考えよう。そうすれば、どんなことでも決して、あなたに障害をあたえないだろう」(エピクテトス:古代ギリシャのストア派の哲学者)

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