産業保健調査研究報告書


産業保健推進センターと地域産業保健センターの
効果的連携に関する調査



研究代表者 産業保健推進センター所長  中矢 良一
共同研究者 産業保健相談員       藤原 壽則
園田 順二


1.はじめに
 愛媛県下の産業保健活動を活性化させるためには、産業保健推進センターと地域産業保健センターの連携が不可欠である。小規模事業の産業保健の実態を把握するために、アンケート調査を実施した。
       
2.対象
 対象地域を松山、伊予三島の二つの地域産業保健センターとした。二つの地域産業保健センターの登録産業医と、有害物取扱事業場(規模30人〜49人)及び一般事業場(規模40人〜49人)を対象とした。
 83名の登録産業医の内、37名から回答があった(回答率44.6%)。
 有害物取扱事業場では、87の事業所の内、28の事業所より回答があった(回答率37.3%)。一般事業場では、273の事業所の内、106の事業所より回答を得た(回答率38.8%)。
      
3.調査結果
T 地域産業保健センター登録産業医アンケート
 地域産業保健センターへの登録が5年以上の産業医は、27%であり、5年未満は49%であった(回答無し34%)。
    
@ 登録産業医の健康相談等
 登録産業医の健康相談へは、回答者の内の68%が出務している。
主務回数
1回 2回 3回 4回 5回 6回
11% 14% 8% 8% 5% 8%

1回当りの相談者数

   5人未満    5人以上9人まで  10人以上14人    15人以上  
41% 14% 14% 5%
       
A 登録産業医の個別産業保健指導
 登録産業医の個別産業保健指導での出務は、84%と健康相談の割合よりも高い。
指導内容
◆健康診断結果に基づく有所見者の健康相談の実施   15件  40.5%
1回の指導人員
 1人  3人  4人  5人 6〜9人 10人 20人 30人 36人 48人
1 1 2 3 0 4 1 1 1 1
            
◆訪問事業場の従業員への集合保健指導を実施した   10件  27.0%
1回の指導人員
 8人 10人 18人 20人 23人
1 5 1 2 1
         
◆職場巡視を行い、衛生管理・作業管理・作業環境管理指導を実施した 15件 40.5%
◆健診結果表の説明、作業転換や労働時間上の配慮等で事業主に意見を述べた 9件 24.3%
◆職場のメンタルヘルス研修を行った  1件    
◆粉じん防止についてQ&Aを行った 1件    
      
B 地域産業保健センターの登録医師としての意見
◆訪問事業場の衛生管理・健康管理に役立ったと思う 14件 37.8%
◆健康相談した従業員に保健知識を与えられた 18件 48.6%
◆改善させるには時間が不足 3件    
◆健康診断結果による事後措置の意見は言える 15件 40.5%
◆事後措置意見は難しい 1件    
       
C 地域産業保健センターの活動、受託事業の活性化についての意見
◆小規模事業場の労働者、経営者が存在を知らない。意義を認められていない。
◆認定医であっても活動の場があまりないのでは、意欲が低下することは避けられない。
◆労働基準監督署の指導を頻繁に行い、事業者に産業保健への理解と実行を促す。
  企業の上層部の理解がなければ進まない。
◆健康の意識を高めるには、根本的に義務教育の時期に基本的教育を施す必要がある。
     
U 事業場調査
 事業場調査は、従業員30〜49人の有害業務を有する事業場と従業員40〜49人規模の事業場についてアンケート調査を実施した。
(1)従業員30〜49人の有害業務を有する事業場の属性
イ 業種
 調査について、28事業場より回答があった。製造業が67%、建設業が4%を占めている。
ロ 規模
 事業場規模10〜19人が全体の21%、20〜29人が11%、30〜39人が25%、40〜49人が43%を占める。
ハ 調査結果
〔1〕
  
 事業場の労働衛生・健康管理の担当者は、安全衛生推進者が75%を占め、事業主は18%である。
     
〔2〕


  
 有害業務を有する事業場の内、粉じん業務のある事業場は全体の54%を占め、従事者総数は137名である。有機溶剤取扱業務は39%の事業場で行っていて、従事者総数は50名である。鉛取扱業務は1社で7名、特化学物質取扱事業場は1社で1名、酸欠事業場は1社で3名、その他の物質を取り扱っている事業場は、1社、8名の従事者である。
      
〔3〕  有害業務の労働衛生管理では、
@有機溶剤、鉛、特定化学物質、酸欠作業主任者を選任している事業場は、57%である。
A有害業務の作業場に掲示、注意表示、作業主任者の表示を行っている事業場は、54%である。
B法定の特別教育や就業時教育等は、68%の事業場が行っている。
C化学物質等安全データシート(MSDS)は、29%の事業場が使用している。
      
〔4〕  健康診断の実施について
@一般定期健康診断は、28事業場、総ての事業場が実施していた。
A特殊健康診断は、75%の事業場が実施していた。粉じんの健康診断が13件、有機溶剤の健康診断が8件などである。
B雇い入れ時の健康診断は、58%の事業場は行っていた。
C就業時配置換時健康診断を行っている事業場は、100%である。
      
〔5〕  健康診断の結果について
@健康診断結果報告書を受診者に渡している事業場は、全数100%である。
A健康診断の所有見者の事後措置を医師に相談している事業場は、60%である。
     
〔6〕  作業環境測定の実施について
@作業環境測定を実施している事業場は、43%である。
A測定の結果で、第1管理区分の事業場は21%、第3管理区分があった事業場は11%であった。
B第2、第3管理区分の作業場の改善を行った事業場は、21%であった。
C局所排気装置の点検を行っている事業場は、54%であった。
D健康診断の結果に基づく保健指導を実施している事業場は、67%である。
      
〔7〕  小規模事業場の産業保健について、国が地区医師会に委託している無料の支援サービスについて
@利用できることを知っていた事業場は43%であり、57%の事業場は支援サービスを知らなかった。知ったきっかけは、パンフレットで2件、地域センターで1件、健康診断機関から1件、推進センターの資料で1件、医師から1件となっている。
A支援サービスを利用したことがあると回答したのは、6事業場で全回答数の21%、支援サービスを知っていると答えた事業場の50%である。
B利用した場合、産業保健情報の提供について、概ね満足しているが80%、満足しているが17%であった。
      
〔8〕  医師等による保健相談・保健指導について
@受けた回数では、1回が2社、2回が1社、3回が2社、6回が1社である。
A健康相談や保健指導を受けた感想は、概ね満足しているが83%、満足しているが17%である。
B健康相談や保健指導を受けたのは事業場総人数の内で、43人中40人、34人中10人、70人中4人、40人中40人であった。
C個別訪問指導により、作業転換や労働時間上の配慮等事後措置を行った事業場が1社あり、4人に措置している。
D作業環境改善について、指導により改善したのは、2社である。
E作業方法の改善について、2社が指導により行っている。
    
(2)従業員40人〜49人の事業場の属性
イ 業種
 調査について、106事業場より回答があった。製造業が25%、商業が25%、接客娯楽業が9%、建設業が4%を占めている。
ロ 規模
 事業場規模40〜49人が全体の56%を占め、30〜39人が25%、20〜29人が10%、10〜19人が7%、9人以下が2%である。
ハ 調査結果
〔1〕
  
 事業場の労働衛生・健康管理の担当者は、安全衛生推進者が64%を占め、事業主は25%、その他の担当者が11%である。
      
〔2〕
   
 安全衛生年間計画は、64%の事業場が作成している。34%の事業場は作成していない。
      
〔3〕
    
 安全衛生管理組織・規定があると回答した事業場は54%、ないと回答したのは41%である。
      
〔4〕  事業場で実施している事項について(複数回答)
@作業マニュアルを作成している事業場は、回答事業場の42%である。
A点検表を作成している事業場は、回答事業場の35%である。
B雇入時安全衛生教育を行っている事業場は、回答事業場の36%である。
C特別教育を行っている事業場は、回答事業場の14%である。
D4Sを実施している事業場は、回答事業場の19%である。
EKYTを実施している事業場は、回答事業場の20%である。
F「ひやり!はっと!」を行っている事業場は、回答事業場の25%である。
G職場体操を行っている事業場は、回答事業場の内27%である。
      
〔5〕  健康診断の実施について
@一般定期健康診断は、98事業場、92%の事業場が実施していた。実施していないのは5%である。
A雇い入れ時の健康診断は、46%の事業場が行っている。行っていない事業場は、40%である。
B特殊健康診断は、21%の事業場が実施していた。実施している特殊健康診断の内容は、生活習慣病・人間ドック6件、VDT健診4件、じん肺健診4件、振動障害2件、有機溶剤健診2件、腰痛健診1件である。
      
〔6〕  健康診断の結果について
@健康診断結果報告書を受診者に渡している事業場は、93%である。
A健康診断の有所見者の事後措置を医師に相談している事業場は、45%である。
B健康診断の結果に基づく保健指導を実施している事業場は、54%である。
      
〔7〕  作業環境測定の実施について
@法定の作業場所の作業環境測定を実施している事業場は、12%である。
A照明、空気環境等の作業環境測定を実施している事業場は、20%である。
      
〔8〕  小規模事業場の産業保健について、国が地区医師会に委託している無料の支援サービスについて
@利用できることを知っていた事業場は24%であり、70%の事業場は支援サービスを知らなかった。知ったきっかけは、安全衛生週間説明会で4件、講習会で4件、パンフレットで2件、広報、推進センター資料、医師会で、労働基準監督署で、知人からなどがそれぞれ1件となっている。
A支援サービスを利用したことがあると回答したのは、回答事業場の8%であり、支援サービスを知っていると答えた事業場の32%である。
B利用した場合、産業保健情報の提供について、概ね満足しているが38%、満足しているが13%、情報が足りないが13%であった(無回答3件)
      
〔9〕  医師等による健康相談・保健指導について
@受けた回数では、1回が4社、5回が1社である。
A健康相談や保健指導を受けた感想は、概ね満足しているが50%、満足しているが13%である。
B健康相談や保健指導を受けたのは事業場総人数の内で、5人中5人、15人中1人であった。
C個別訪問指導により、作業転換や労働時間上の配慮等事後措置を行った事業場は、なかった。
D作業環境改善について、指導により改善したのは、1社である。
E作業方法の改善について、1社が指導により行っている。
      
〔10〕  安全衛生管理面において、指導・関係をもっている機関、団体はどこか(複数回答)
@労働基準監督署は、回答事業場の53%である。
A労働基準協会は、36%である。
B商工会・商工会議所は、32%である。
C業者団体は、15%である。
D災害防止協会は、14%である。
E社会保険労務士は、13%である。
F労働衛生機関は、4%である。
Gコンサルタントは、4%である。
H県市町村商工部は、1%である。
      
(3) 共通のアンケート事項について
〔1〕  健康診断の実施について
@一般定期健康診断は、有害事業場で100%、一般事業場は92%の事業場が実施していた。
A雇い入れ時の健康診断は、有害事業場で58%、一般事業場では46%の事業場が実施していた。
B特殊健康診断は、有害事業場で75%、一般事業場は21%の事業場で実施していた。
      
〔2〕  健康診断の結果について
@健康診断結果報告書を受診者に渡している事業場は、有害事業場で100%、一般事業場は93%であった。
A健康診断の有所見者の事後措置を医師に相談している事業場は、有害事業場で61%、一般事業場は45%であった。
      
〔3〕  従業員の健康管理について
      有害業務事業場  一般事業場
@腰痛対策を実施している事業場 42% 14%
A喫煙対策を実施している事業場 43% 53%
B健康づくり対策を実施している事業場 50% 39%
C快適職場づくりを実施している事業場 61% 60%
D生活習慣病の予防を実施している事業場 46% 35%
ETHPを実施している事業場 4% 4%
      
〔4〕  小規模事業場の産業保健について、国が地区医師会に委託している無料の支援サービスについて
@利用できることを知っていた事業場は有害業務事業場では43%、一般事業場は24%であった。
A支援サービスを利用したことがあると回答したのは、有害業務事業場では21%、一般事業場は8%であった。
B利用した場合、産業保健情報の提供について、概ね満足しているが有害業務事業場で80%、一般事業場は38%であり、満足しているが有害業務事業場で17%、一般事業場は13%であった。
      
〔5〕
  
 地域産業保健センターの登録医、保健師が行っている小規模事業場の産業保健サービス事業の活用について
@事業場を個別訪問して行う健康相談・保健指導を活用したいと回答した事業場は、有害業務事業場で25%、一般事業場26%であった。
A地域産業保健センターが開設する健康相談窓口を活用したいと回答した事業場は、有害業務事業場で32%、一般事業場26%であった。
B法令改正や災害事例などの産業保健情報を提供してほしいと回答した事業場は、有害業務事業場で50%、一般事業場は44%であった。
C愛媛産業保健推進センターのホームページを見たことがあると回答したのは、有害業務事業場で7%、一般事業場は6%であった。
D地域産業保健センターのホームページを見たことがあると回答したのは、有害業務事業場で7%、一般事業場6%であった。
      
〔6〕  産業保健サービス事業の知名度と利用について
 有害業務事業場では、回答の43%がサービス事業を知っていて、18%が利用している。一般事業場では24%が知っていて、8%が利用している。事業を知っていた有害業務事業場の半数が利用している。
      
〔7〕
  
 産業保健サービス事業の利用希望事業場について(業種割合 有害業務事業場:製造業89% 一般事業場:製造業31%、商業19%、建設業13%)
 健康窓口相談、事業場訪問の保健指導を利用したい、両者を利用したいと回答した事業場は、有害業務事業場で32%、25%、一般事業場で30%、20%であった。双方の回答事業場の構成業種割合の差から考えると、製造業での利用希望は他の業種とあまり変わらないとみられる。
 なお、利用希望事業場でサービス事業を知っていたのは、有害業務事業場で67%(全体は43%)、一般事業場で28%(全体は24%)である。
 利用希望事業場で以前利用したことがあるものは、有害業務事業場ではゼロ、一般事業場では9%である。
 サービス事業利用希望事業場の健康診断と従業員の健康管理の取組みについて、有害業務事業場と一般事業場を比較してみると下記の通りである。
有害業務事業場 一般事業場
健康診断の事後措置を医師に相談している 61% 46%
健康診断の結果に基づく保健指導を行っている   67% 54%
従業員の健康管理での実施事項
              腰痛対策 42% 14%
              喫煙対策 43% 53%
              健康作り 50% 39%
              快適職場対策 61% 60%
              生活習慣病対策 46% 35%
                                    %は全体の回答割合
 有害業務事業場では製造業が多くを占めているが、腰痛対策と生活習慣病対策での取組みが一般事業場よりも高い。製造業では、特に生活習慣病への取組みを行っている利用事業場が多い。その反面、一般事業場、業種全体では、まだまだ生活習慣病対策への取組みの関心が低いと云えよう。
      
4.まとめ
 産業医の保健指導では、個別産業保健指導が窓口健康相談より実施率が高かった。指導内容は、健康相談、職場巡視による作業管理での指導が同数である。メンタルヘルス、粉じん対策での具体的な指導を行っている例もあり、積極的な健康づくりの指導を実施することが望まれる。
 地域産業保健センター、産業保健推進センターの知名度は、有害業務事業場は一般事業場に比べて高く、センター利用率も高かったが、今後の利用では、両者に大きな差はみられず、双方とも利用の意欲は低調であった。
 健康診断の実施率は高く、本人への通知、医師への相談も殆どの事業場が実施しているという調査結果となっている。
 なんらかの健康づくり対策を実施している事業場が、多くみられた。健康診断の事後措置とともに、生活習慣病の予防として健康づくり対策を進めなければならない。
 定期健康診断での有所見率が年々高くなってきている状況の中、有所見者の事後措置を医師に相談していない割合が半数近くに及んでいる。健康保持増進のための健康づくり対策の役割が大きくなってきている。産業保健の事業場外資源として産業保健のニーズを作り出すことにより事業場の産業保健への関心を高めることが、産業保健センターの利用に繋がるのではないかと考える。