労働者を取り巻く情勢をみると、社会的・個人的環境変化が著しく、その影響を受けて、メンタルヘルスの
問題が大きくクローズアップされている。
愛媛県下の職場におけるメンタルヘルスの実態は十分には明らかにされていないため、今回、それを明らか
にし、産業保健看護職としてメンタルヘルスの向上のための活動指針を得る目的で、本調査研究を実施したも
のである。
(1) 調査対象
イ 事業場の調査
県下の産業保健婦・看護職を雇用している事業場57社を対象として、メンタルヘルスに対する取り組み状
況、過去3年間のその問題事例の実態等を調査した。
ロ 労働者個人の調査
上記イの1事業場当たり15名(年齢階層別に男10名、女5名)を対象として、ストレス状況、ソーシャ
ルサポートの有無等を調査した。
(2) 調査方法
アンケート方式により実施した。
57社のうち38社から回答があり(回収率66.7%)、
個人調査では520名の労働者より回答を得た。そ
の結果は、次のとおりである。
(1) 事業場調査
イ 事業場の属性等
回答のあった事業場の業種及び規模は次の表1のとおりであった。
(表1)
従業員数
業 種
|
100人
未満
|
100人〜
199人
|
200人〜
299人
|
300人〜
499人
|
500人〜
999人
|
1000人
以上
|
計
|
製造業
|
1
|
2
|
3
|
3
|
5
|
4
|
18
|
建設業
|
|
1
|
1
|
1
|
|
|
3
|
運輸業
|
|
|
|
1
|
|
|
1
|
商業
|
|
|
|
1
|
1
|
|
2
|
金融・保険業
|
1
|
1
|
|
|
|
|
2
|
電気・ガス・水道業
|
1
|
3
|
1
|
|
2
|
|
7
|
上記以外の事業
|
3
|
|
1
|
1
|
|
|
5
|
合 計
|
6
|
7
|
6
|
7
|
8
|
4
|
38
|
|
ロ メンタルヘルスのスタッフの配置等(複数回答)
大部分の事業場には対応者があり、その職種別は表2のとおりであった。
(表2)メンタルヘルス相談の対応者
対 応 者
|
事業場数
|
割合(%)
|
産業医
|
17
|
26.6
|
保健婦
|
9
|
14.1
|
看護婦
|
19
|
29.7
|
精神科医
|
2
|
3.1
|
その他
|
16
|
25.0
|
対応する者はいない
|
1
|
1.5
|
無回答事業場
|
(3)
|
|
35事業場(複数回答有)
合 計
|
(3)
64
|
100.0
|
|
ハ メンタルヘルスの取り組み状況(複数回答)
大部分の事業場において何らかの取り組みを実施しており、その内容は、表3のとおりであった。
(表3)メンタルヘルス・ケアの取り組み状況
取り組み状況
|
件 数
|
割合(%)
|
何もしていない
|
(2)
|
|
スポーツ・レクレーション実施
定期健康診断における問診
相談(カウンセリング)の実施
社内報・パンフレットによる啓発、教育
人事・労務・健康管理担当者に対する教育
管理職に対する講習会等の教育
労働者に対する教育
メンタルヘルスに関する調査
THPによる健康づくりの実施
その他 @健康増進キャンペーンの展開
Aウォーキング大会実施
B各職種レクスポーツ大会
|
17
27
24
17
11
17
10
5
7
3
|
12.3
19.6
17.4
12.3
8.0
12.3
7.2
3.6
5.1
2.2
|
無回答
|
(3)
|
|
合 計 (複数回答有)
|
(5)
138
|
100.0
|
|
ニ 過去3年間における問題事例の実態等
38社のうち22社(57.9%)、延べ60人の問題・相談事例があったとの回答を得た。症状的には「う
つ病」が28人(46.7%)と概ね半数を占め、相談対応は専門医・産業医等医師が46%、保健婦・看護婦
は24.6%であった。
(2) 個人調査
イ 回答者の属性
回答者の内訳は、表4・表5のとおりであった
(表4)性・年齢階級別回答数
|
29歳以下
|
30〜49歳
|
50歳以上
|
不 明
|
計
|
男
|
102
|
149
|
100
|
2
|
353
|
女
|
51
|
80
|
36
|
0
|
167
|
計
|
153
|
229
|
136
|
2
|
520
|
|
(表5)職 別
|
人数(人)
|
割合(%)
|
一般
|
338
|
65.0
|
係長待遇
|
67
|
12.9
|
課長待遇
|
57
|
11.0
|
部長待遇以上
|
19
|
3.6
|
その他
|
39
|
7.5
|
計
|
520
|
100.0
|
|
ロ ストレスの状況等
回答者のストレスの状況、ソーシャルサポートの有無の状況は次のとおりであった。
(イ)ストレスの状況
現在の労働者は、激しい技術革新の波にもまれつつ、仕事の割に報われないと感じ、将来に対して悲観的な
気持ちを持ちやすい傾向にある。生活面では30〜49歳の働き盛りの年代は「個人」「職場」に関連するこ
とからのストレスを受けているのに対し50歳以上のものは、「家庭」に関連することからのストレスを多く
受けている。
(ロ)ソーシャルサポートの有無等
ソーシャルサポートの役割を担うのは、「親」や「配偶者」などの肉親であり、次いで「職場以外の友人」
「職場の同僚」であった。一方、「職場の産業医・保健婦・カウンセラー」などの専門職は、殆どソーシャル
サポートの役割を期待されていない現状が明らかになり、今後の重要な課題の一つであることが判明した。
(1) 回答事業場のうち約6割が過去3年間でメンタルヘルスの問題事例があり、加えて、職場(組織)がメンタ
ルヘルスの相談機関として余り利用されていないという個人調査の結果を考慮すると、事業場におけるメンタ
ルヘルス問題は、普遍化していると言っても過言ではない。
(2) このような状況の中で、今後は職場における産業医・保健婦・看護婦等のストレスに関する専門家の育成と
十分にその役割をはたせるような体制づくりが急務であると考えられる。
(3) 一方、職場の中でメンタルヘルス活動を有効に推進するためには、労働者が利用しやすい環境づくりも見逃
せない。プライバシーの保護は勿論のこと、ストレス関連疾患は、未だ偏見が存在するのも事実であり、その
除去を含めたメンタル社内教育の実施やあまり精神・心理面を強調しない心身両面からの健康管理即ち全人的
アプローチをする必要がある。
(4) 産業保健婦・看護婦は以上のことを踏まえた労働者にとって良き相談者・サポート役に徹し、また、専門医
への良きコーディネーターとなることが望まれる。
(5) 最後に労働者は職場ストレスのみならず、様々なストレスを抱えている。職場・地域レベルでのメンタルヘ
ルス対策のシステムづくりも課題である。
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