平成12年8月に旧労働省より「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が公表されたが、
労働者に対するメンタルヘルスケアの実態は把握されていないことから、各事業場におけるメンタルヘルス対
策への取り組み状況を調査の上、問題点を把握し実態に即した解決策を見出す目的で本調査研究を実施したも
のである。
(1) 調査対象
イ.事業場の調査
県下の100人以上の労働者を雇用する事業場440社を対象とした。
ロ.労働者の調査
上記イの1事業場当たり10名(年齢階層別に男女各5名)を対象とした。
(2) 調査方法
アンケート方式により実施した。
440社のうち276社からの回答があり(回収率62.7%)個人調査では1,610名の労働者より回
答を得た。
その結果の概要は、次のとおりである。
(1) 事業場調査の結果
イ.事業場の属性等
回答のあった事業場の業種及び規模は、次の表1のとおりであった。
(表1)回答事業場の属性
労働者数
業 種
|
100人
未満
|
100人〜
199人
|
200人〜
299人
|
300人〜
399人
|
400人〜
499人 |
500人〜
999人
|
1000人
以上
|
計
|
製造業
|
20
|
40
|
19
|
10
|
3
|
14
|
5
|
111
|
建設業
|
3
|
5
|
2
|
2
|
0
|
0
|
0
|
12
|
運輸・交通業
|
7
|
4
|
4
|
3
|
1
|
2
|
0
|
21
|
卸・小売業
|
4
|
11
|
8
|
2
|
1
|
4
|
2
|
32
|
金融・保険業
|
4
|
2
|
1
|
0
|
0
|
1 |
1
|
9
|
医療業
|
1
|
9
|
15
|
6
|
1
|
0 |
2
|
34
|
その他の業種 |
13
|
20
|
10
|
4
|
1
|
5
|
4
|
57
|
計
|
52
|
91
|
59
|
27
|
7
|
26
|
14
|
276
|
|
ロ.「心の健康づくり計画」の策定状況
「心の健康づくり計画」を策定している事業場は表2に示すとおり56社(20.3%、安全又は健康の
確保計画を有する事業場の32.0%)であった。
(表2)心の健康づくり計画策定状況
項 目
業 種 |
回 答
事業場数
|
安全又は健康の確保に関わる計画を有する事業場数
|
左のうち心の健康づくり計画を有する事業場数
|
策定率(%)
|
製造業
|
111 |
88
|
32 |
28.8 |
建設業
|
12 |
11
|
3 |
25.0 |
運輸・交通業
|
21 |
18
|
2 |
9.5 |
卸・小売業
|
32 |
15
|
4 |
12.5 |
金融・保険業
|
9 |
2
|
0 |
0 |
医療業
|
34 |
13
|
2 |
5.9 |
その他の業種
|
57 |
28
|
13 |
22.8 |
計
|
276
|
175
|
56 |
20.3 |
|
ハ.メンタルヘルスの相談体制の現状
メンタルヘルスの相談体制を有する事業場は、次の表3に示すとおり178社(64.5%)あり、その
対応者をみると「直属の上司」及び「人事労担当務者」が100事業場程度と多くを占めている。
(表3)相談体制の有無
項 目
状 況
|
回 答
事業場数
|
相談体制を有する事業場数(%)
|
製造業 |
111 |
73 (65.8) |
建設業 |
12 |
9 (75.0) |
運輸・交通業 |
21 |
10 (47.6) |
卸・小売業 |
32 |
22 (68.8) |
金融・保険業 |
9 |
4 (44.4) |
医療業 |
34 |
24 (70.6) |
その他の業種 |
57 |
36 (63.2) |
計 |
276 |
178 (64.5) |
|
ニ.メンタルヘルス対策の取り組み状況
(イ)業種別取り組み状況
メンタルヘルス対策について、何らかの取組を実施している事業場は次の表4に示すとおり122社
(44.2%)と低調である。
(表4)メンタルヘルス対策の実施状況
業 種 項 目
|
製造業
|
建設業
|
運輸・交通業
|
卸・小売業
|
金融・保険業
|
医療業 |
その他の業種 |
計 |
回答事業場数
|
111 |
12
|
21
|
32
|
9
|
34 |
57 |
276 |
実施事業場数
|
55 |
6 |
5
|
17
|
2
|
8 |
29 |
122 |
実施率(%)
|
49.5 |
50.0 |
23.8
|
53.1
|
22.2
|
23.5 |
50.9 |
44.2 |
|
(ロ)具体的な取組事項
メンタルヘルス対策の具体的実施事項は表5に示すとおりであるが、旧労働省が策定した指針で定
められている4つのケアと密接に関連する「労働者に対する教育」等の実施率は低調である。
(表5)メンタルヘルス対策の具体的内容
内 容
業 種
|
メンタルヘルスの調査 |
スポーツ・レクレーションの実施
|
健康診断における問診 |
相談・カウンセリングの実施 |
社内報による啓発 |
労働者に対する教育 |
管理者に対する教育 |
産業保健スタッフに対する教育等 |
事業外資源の活用 |
THPによる健康づくり |
製造業
|
3
|
34
|
49 |
20 |
22 |
13 |
18 |
9 |
12 |
7 |
建設業 |
0
|
3
|
5 |
1 |
2 |
2 |
1 |
0 |
0 |
2 |
運輸・交通業
|
0
|
2
|
4 |
1 |
1 |
2 |
1 |
0 |
0 |
0 |
卸・小売業
|
7
|
5
|
7 |
4 |
7 |
1 |
4 |
1 |
2 |
1 |
金融・保険業
|
0
|
0 |
2 |
2 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
医療業 |
0 |
5 |
6 |
5 |
0 |
0 |
1 |
1 |
1 |
1 |
その他の業種 |
6 |
18 |
22 |
15 |
14 |
9 |
12 |
1 |
5 |
3 |
計
|
16
|
67
|
95 |
48 |
47 |
27 |
37 |
12 |
20 |
14 |
実施率
(%) |
5.8
|
24.3 |
34.4 |
17.4 |
17.0 |
9.8 |
13.4 |
4.3 |
7.2 |
5.1 |
(2) 労働者個人調査の結果(簡易ストレス調査票を用いたもの)
イ.回答者の属性
回答者1,610名の性別等内訳は表6のとおりであった。
(表6)性・年齢別回答者数
|
25歳未満 |
25〜34歳 |
35〜44歳 |
45〜54歳 |
55歳以上 |
不明 |
計 |
男 |
125 |
194 |
202 |
187 |
161 |
0 |
869 |
女 |
144 |
178 |
144 |
161 |
112 |
2 |
741 |
計 |
269 |
372 |
346 |
348 |
273 |
2 |
1,610 |
ロ.仕事のストレス判定結果について
「仕事の量的負担」等4つのストレス要因の平均点と健康リスクは表7に示すとおり、全ての
業種、性別においても、ストレス問題が顕在化している場合が多いとされる健康リスク120を
下回っている。 |
(表7)仕事のストレス判定
男 性
業種別 |
人 数 |
量的負担(点) |
コントロール(点) |
上司の支援(点) |
同僚支援(点) |
健康リスク |
量的コントロール |
職場の支援 |
総 合 |
製造業 |
342 |
8.78 |
7.92 |
7.45 |
8.09 |
102 |
105 |
107 |
建設業 |
44 |
8.77 |
8.27 |
8.00 |
8.29 |
99 |
97 |
96 |
運輸・交通業 |
71 |
8.76 |
7.66 |
7.42 |
7.73 |
104 |
109 |
113 |
卸・小売業 |
103 |
9.26 |
8.30 |
8.17 |
8.39 |
102 |
95 |
96 |
金融・保険業 |
29 |
8.52 |
7.89 |
8.24 |
8.55 |
100 |
93 |
93 |
医療業 |
112 |
8.72 |
7.74 |
8.18 |
8.33 |
103 |
95 |
97 |
その他の業種 |
168 |
8.57 |
7.98 |
7.82 |
8.23 |
100 |
100 |
100 |
女 性
業種別 |
人 数 |
量的負担(点) |
コントロール(点) |
上司の支援(点) |
同僚支援(点) |
健康リスク |
量的コントロール |
職場の支援 |
総 合 |
製造業 |
277 |
8.06 |
7.66 |
7.05 |
8.14 |
100 |
102 |
102 |
建設業 |
39 |
7.38 |
7.44 |
6.72 |
8.74 |
109 |
109 |
109 |
運輸・交通業 |
52 |
7.75 |
7.96 |
7.42 |
8.35 |
99 |
96 |
95 |
卸・小売業 |
90 |
8.67 |
7.93 |
7.04 |
8.21 |
101 |
101 |
102 |
金融・保険業 |
30 |
8.37 |
8.48 |
7.11 |
8.48 |
99 |
98 |
97 |
医療業 |
117 |
8.99 |
7.54 |
7.70 |
8.62 |
103 |
91 |
93 |
その他の業種 |
136 |
8.41 |
7.85 |
7.39 |
8.23 |
101 |
97 |
97 |
旧労働省策定のメンタルヘルス指針に照らして、今回の調査結果を見ると、事業場におけるメン
タルヘルスケア対策は不十分極まると言わざるを得ない。
具体的には、
1.心の健康づくり自体がなされていないこと又は計画的な取組がなされていないこと。
2.4つのケアの推進に結びつく教育・研修が実施されていないこと。
3.事業場外資源の活用が不十分であること。
などが挙げられる。
この原因は、事業場としてメンタルヘルスケアに関する知識や経験が乏しいため、その必要性を
肯認しながらも(対策未実施事業場の98%が必要性を認めている。)、具体的な対策を実施でき
ない状況にあるものと思われる。
一方、個人調査の結果を見ると、全体的には健康リスクからみて問題が起きているとは思われな
いが個々のストレス要因の健康リスクが100を越えているものが相当あることから、健康リスク
の低減を図る必要がある。
労働者の心の健康が確保されることや職場の良好な人間関係を形成することは、業務の適正な執
行、生産性の確保に欠かせないことであり、労使が一致協力して具体的な対策を推進することが重
要でありその中心的役割を担うスタッフの育成を最優先すべきと思われる。さらには、管理監督者
や労働者等に対し教育・研修を実施する等メンタルヘルスケア対策の拡大化を順次推し進めるのが
現実的と思われる。
なお、調査時点において、メンタルヘルスに関わる何らかの問題点を有している事業場は、49
社(1.78%)あり、その内容は「うつ病」と「人間関係」であったことを付言しておきたい。
推進センターとしては、業種や性別で健康リスクの相違がみられたこと、上司の支援が全体的に
低調であったことを十分踏まえた事業の実施を図る必要があるものと思われる。
|