産業保健コラム

愛媛労災病院 院長 宮内文久

時間栄養学

2014年08月


 人間の体内時計は1日を25時間で刻んでいると理解されています。この25時間と地球の自転に要する24時間とのズレを補正しているのが睡眠であり、睡眠によって体内時計がリセットされ、新たな1日が始まることとなります。

 では、この1時間がなぜ必要なのでしょうか?
 一般的には日照時間が最も長い夏至の日には昼間が約14時間、夜間が約9時間となり、日照時間が最も短い冬至の日にはこの時間が逆転し昼間が約9時間、夜間が約14時間になります。このような日照時間の変化に対応するため、ヒトは約1時間の余裕を持っているのではないかと推測されていますが、定かではありません。

 体内時計による日内リズムは主に光によって調節されています。網膜に入った光は網膜に存在する第3の視細胞、メラノプシン含有網膜神経節細胞によって光刺激が松果体に伝えられ、松果体からのメラトニンの分泌に置き換えられて体内に情報が伝わって行きます。したがって、日内リズムの乱れを修正する最も有効な方法は朝太陽の光を浴びることです。どんなに眠くても朝いつもの時間に起きて太陽の光を約15分間ほど浴びることによって、体内時計をリセットすることが可能です。

 光刺激以外では体内時計を調節している因子に食事や社会的因子(勉強や仕事、家庭での生活など)、運動があげられます。朝食を食べている小学生・中学生の学力や運動能力は、朝食を食べていない小学生・中学生よりも優れており、朝食を食べている小学生・中学生では体温は1~1.5度上昇しています。このように食事は体内時計と大きく連動しています。

 このようなことから、「時間栄養学」の概念が導入されて来ました。どのように朝食・昼食・夕食を摂ればいいのか。どれ位の量をどのような順番、速さで摂ればいいのか。などの疑問に、「時計」から答えようとするものです。

 前述のごとく、朝食を摂ることによって体内時計が作動し始め、体温が上昇し、意欲や活力・記憶力が活性化します。次に、Bmal1と呼ばれている遺伝子は脂肪の蓄積に関与し、昼間はほとんど産生されないにも関わらず、深夜になると増加します(特に午後10時から午前2時頃が一番多く、昼間の約20倍)。したがって、Bmal1の少ない朝や昼間に食事をすると肥満予防になり、深夜に食事をすると太りやすいことになります。また、腎臓でNaを再吸収するアルドステロンは16時~20時頃に体内濃度が低くなるため、この時間帯であれば多少塩分濃度の高い食事を摂取しても比較的差し支えないということになります。

 咀嚼が脳内の満腹中枢を刺激し、やがて満腹が認識されるまでには約20分間程度かかることから、食べ始めて20分以内では満腹と認識されず、「早喰い」が肥満に繋がることとなります。また、「食べる順番」も血糖値の上昇と関係しています。例えば、まず先に野菜など食物繊維の多いものを摂取すると血糖値の上昇が抑制されることが解っています。

 つまり、たとえ同じ献立やカロリーの食事でも「食べる順番」に注意することにより、血糖値の上昇を抑制することが可能となります。このように、「時計」を意識した行動により、より健康的な生活を送ることが可能となります。

愛媛労災病院 院長 宮内文久

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