産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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向精神薬と運転 ~道路交通法一部改正および自動車運転死傷行為処罰法の施行に伴う注意点~

2014年11月


 平成25年6月に道路交通法の一部を改正する法律が公布され、一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度に関する規定については、平成26年6月1日より施行された。
 これにより、公安委員会は運転免許の取得・更新をしようとする者に対して、政令で定める「一定の病気」に関して該当するか否か判断するための質問票を交付することが出来るようになった。

 質問票を受けたものは、正確な記載をしなければならず、虚偽の記載・報告をした場合には処罰(1年以下の懲役または30万円以下の罰金)される。
 また、医師は診察した者が「一定の病気」等に該当すると認知し、その者が運転免許を有していると知った時には、診察結果を公安委員会に任意で届出することが出来る。

 この医師からの任意の届出に関するガイドラインは先ごろ日本医師会が取り纏めて公表した。
 また、各疾患に関しては関連学会の指針がホームページ等に公表されているので、参照されたい。

 「一定の病気」とは統合失調症、てんかん、再発性の失神(神経起因性失神や不整脈性失神など)、無自覚性低血糖症(薬剤性低血糖症など)、躁うつ病(うつ病と双極性障害を含む)、重度の眠気症状を呈する睡眠障害、脳卒中、認知症(脳血管性認知症やアルツハイマー病など)、アルコール依存症(麻薬、大麻、あへん、覚せい剤中毒者含む)を指す。
 このほかに、過去5年間に原因は明らかでないが、意識を失ったり、体の全部 又は一部が思い通りに動かなかったりした場合には適正相談の対象となる。

 あるいは、医師から病気を理由として運転免許取得や運転を控えるように助言を受けた場合にも申し出が望まれる。

 仮に、「(1)病気のために正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で、
 (2)そのことを自分でも分かっていながら自動車を運転し、
 (3)病状のために正常な運転が困難になり人を死傷させた場合 」

 という3つの要件を満たしたときには、自動車運転死傷行為処罰法(平成26年5月施行)により、重い罪に問われることになった。

 この法律が施行されて、よく質問されるのが、例えば「うつ病患者が復職したが、抗うつ剤と睡眠剤を内服している。通退勤を含めて運転業務に従事させて良いのか?」といった事例である。実際、このような事例は決して珍しくない。
 ただ、その判断は難しく、病状や内服薬の種類・量、服薬する時間帯などにも左右され、副作用出現には個人差があるため、結局は個別の判断になる。
復職に当たっては、十分に主治医と産業医との間で情報交換することが望ましい。

 ただ、服薬中の自動車運転の問題は、今回取り沙汰された向精神薬だけではなく、他にも存在する。抗アレルギー剤や抗不整脈薬、降圧薬、頭痛薬、排尿改善薬など、多くの領域の治療薬に関わる。花粉症治療薬で眠気を感じた経験をお持ちの方は多いはずである。

 厚生労働省は、服用中の運転に関して注意喚起・周知徹底を求めている。
 日頃から、ご自身の体調管理に気を配り、内服薬の効果・副作用について主治医とよく相談されることをお勧めしたい。

産業保健相談員(メンタルヘルス)  牧 徳彦

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