産業保健コラム

昇 淳一郎 相談員

    • 産業医学
    • 松山記念病院 医師
      ■専門内容:産業医学・精神保健
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健康を会計的にとらえる試みについて

2011年11月


「健康会計」という用語が、健康関連の新産業創出を目指して、あるいは、企業における健康経営・健康増進の取り組みを促進することを目的として平成19年に国から提唱され、人的資本のうちの重要な柱のひとつである健康資本を定量的・定性的にとらえることが試みられています。健康資本増進グランドデザイン研究会(平成20年2月 経産省)により示された健康会計の骨子では、PDCAサイクルを基本としたCSR視点の仕組みを前提とし、従来からコストとしてとらえられている健康増進費用を投資として示し、ステークホルダーへの情報開示を目指すものとされています。平成23年7月に内閣府から公表された経済財政白書においては、人材などの無形資産への投資強化の必要性がうたわれており、健康資本を含む人的資本の強化は、先進国間のみならず、新興国を含めたグローバルな競争下で我が国が勝ち抜いていくための条件のひとつであるとの指摘もあります。

「会計」という言葉からは、通常は財務諸表などの金銭面での会計情報を思い起こしますが、広い意味からこの会計という言葉をとらえ、「ある組織の金銭面に限らない内部情報を一定のルールに則って社会に公表する仕組み」として定義づけることが可能です。近年、多くの企業において、財務的会計情報のみならず、環境報告書およびCSR報告書などを通じて、社会との対話を積極的に行っています。また、日経で毎年発表されている「働きやすい会社調査」ランキングにおいて健康に関連する評価項目が含まれていることからも類推できるように、企業内の健康関連取組みを社会に公表して見える化し、何らかの評価を得ることで、企業間のグローバルな人材獲得競争で有利に戦えることにもつながります。

現在、企業内の健康資本あるいは健康関連の労働生産性等の測定が、様々な手法で試みられています。一般に、健康資本は、関与した人々の人件費(主に教育を受けた従業員の機会費用等)が大半を占めており、その概略は比較的容易に把握可能です。何らかの産業保健に関する教育あるいは対策等の結果、休業日数を減らすこと等の結果を得ることができれば、そのような対策に要した人件費はコストではなく投資であったと概ね判定することもできます。我々、産業保健専門職の地道な日々の活動によって、企業における健康資本が増大するとともに、公表された健康情報を元に消費者が商品やサービスを選別する、あるいは新卒の学生が就職先を選択する、といった時代が訪れるのかもしれないと考えると、わくわくしてきます。

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