産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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『自殺予防週間』について

2009年10月


先般、中学生が自宅で硫化水素自殺を図り、それを救助しようとした父親と共に亡くなるという痛ましい事故がありました。硫化水素を発生させて自殺を図る事故は、一部マスコミがその詳細を報道した事を契機に急増したと指摘されています。類似の事故が起こらない様に、政府は報道機関に対し、詳細な自殺方法を報道しないように要望しています。

現在、我が国の年間自殺者数が、3万人を超える異常事態が続いている事は、深刻に受け止める必要があります。自殺問題は、個人的な問題としてのみ捉えるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因がある事を踏まえ、総合的な対策が望まれます。

平成18年10月には「自殺対策基本法」が施行され、次いで、平成19年6月には国の自殺対策の指針になる「自殺総合対策大綱」が決定されました。社会的な取組により自殺を防ぐ目的で、「うつ病対策」および「働くひとのメンタルヘルス対策」に重点が置かれました。地方自治体、医療機関、自殺の防止等に関する活動を行う民間の団体等との密接な連携を図りつつ、自殺対策を強力に推進する事が謳われています。

加えて、平成20年10月には自殺総合対策大綱の一部が改正され、「自殺対策加速化プラン」が決定されました。これは、自殺対策の一層の推進を図るために、国が早急に強化・加速化しようとする施策をまとめたものです。ここに、インターネット情報に基づく硫化水素による自殺対策として、ネット上の自殺関連情報対策の推進等も盛り込まれました。

表題にあるように、本年は9月10日(木)から16日(水)までの一週間が「自殺予防週間」でした。これは、前述の「自殺総合対策大綱」において、「9月10日の世界自殺予防デーに因んで、毎年9月10日からの一週間を自殺予防週間として設定し、国、地方公共団体が連携して、幅広い国民の参加による啓発活動を強力に推進」する事とされています。当該期間中における集中的な啓発事業等の実施を通じて、広く一般に自殺や精神疾患についての正しい知識を普及啓発し、これらに対する偏見を無くす事が目標です。誰もが「心の健康」を損なう可能性がある現代社会においては、国民一人ひとりが自殺問題を、身近な問題として受け止める必要があります。自殺を図った人は、周囲に対しての相談が少ないという調査結果があります。
何か悩みを抱えた際に、すぐに相談できる相手は居ますか。下記に自殺対策に重要な3点を示します。是非、家庭や職場において、お互いの心身の健康に留意し合いましょう。

①<気づき>…周囲の人の悩みに気付き、耳を傾ける。
家族や仲間の変化に敏感になり、心の悩みを抱えている人が発する周りへのサインになるべく早く気づきましょう。「手を差し伸べ、話を聞くこと」は絶望感を減らす為の重要なステップです。 話題をそらしたり、訴えや気持ちを否定したりする事は逆効果です。相手の気持ちを尊重し、傾聴しましょう。

②<つなぎ>…早めに専門家に相談するよう促す。
心の病気の兆候があれば、本人の状況や気持ちを理解してくれる家族、友人、上司・同僚といったキーパーソンの協力を求めましょう。治療の第一歩は、公的相談機関、医療機関の専門家への相談から始まります。キーパーソンと連携して、専門家への相談につなげましょう。

③<見守り>…温かく寄り添いながら、じっくりと見守る。
身体や心の健康状態について自然な雰囲気で声をかけて、見守りましょう。出来れば、家庭や職場での心身の負担が減るように配慮しましょう。

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