産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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若年性認知症に関して

2010年08月


厚生労働省は、「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」(2008年7月)において、「若年性認知症対策を積極的に推進するため、財源の確保も含め、必要な措置を講じていく必要がある」と表明しました。

それによると、①相談コールセンターの設置、②オーダーメイドの支援体制の形成(地域包括支援センターに認知症連携担当者配置)、③就労支援ネットワークの構築、④ケアの研究・普及、⑤広報啓発、⑥介護サービスの評価(若年性認知症利用者受入加算)が示されています。しかし実際には地域包括支援センターの認知症連携担当者も少なく、どのような活動が望ましいのか充分に把握できていない現状です。

若年性認知症は働き盛りの現役世代で発症するため、子供の養育費や住宅ローンの問題など、患者本人だけでなく家族の経済的負担は計り知れません。
患者が男性の場合、介護者となる妻の精神的ストレスは極めて大きく、殊に介護を要する期間(罹病期間)が長期になることが予想されるため、介護負担が長期にわたって圧し掛かります。介護者の「うつ病」になるリスクも高い事が指摘されています。最近では、介護自殺ではないかと推測される残念な事件が報道されています。

企業にとっても、就労継続の可否が重大な問題となります。慢性に進行していく疾患であり、残念ながら元の状態に戻ることは期待できない点が、ある程度啓発が進んでいる「うつ病」とは決定的に異なります。その点を踏まえたうえで、企業として上司や同僚に対する適切な助言・支援が必要になってきます。詳しく述べますと、同じ若年発症の認知症でも、アルツハイマー病と脳血管性認知症では病状や特徴、周囲の対応方法も変わってきます。主治医や家族、そして企業担当者、産業医が連携・協同して支援策を検討する必要があります。近年、高次脳機能障害や若年性認知症の事例が、産業保健の分野で関心を集めています。若年性認知症の特徴を踏まえた就労支援策や具体的な企業支援策を、今後国には期待したいところです。

若年期認知症サミット※(2007広島)アピール宣言では、企業が社会的責任を認識して、認知症を理由とする解雇をしない事を求めると共に、国に対して、税や医療費、年金、子供の養育、就労等の支援策を講じるように要望しています。
また、住宅ローンや生命保険に関しては、高度障害の認定を望んでいます。家族の切実な想いを受け止め、決して特別な疾患ではなく、誰にでも起こりうる現実の問題として、皆様に認識して頂きたいと思います。

※ 医学的に正しい表現は「若年期」認知症ですが、通常現場で用いられる用語として「若年性」認知症が増えております。

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