産業保健コラム

昇 淳一郎 相談員

    • 産業医学
    • 松山記念病院 医師
      ■専門内容:産業医学・精神保健
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ICTを用いた面接指導について

2016年03月


産業保健分野における情報通信技術(ICT)の普及にともない、その技術を活用した産業保健活動が広がりをみせつつあります。各種の情報通信機器を用いて、保健指導やメンタルヘルス不調者支援などに取り組む事例が、数多く報告されています。
平成27年秋には、厚生労働省から指針として、「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について(平成27年9月15日付け基発0915第5号)」が示されました。この通達にもとづき、今後ますます多くの産業保健現場において、各種の情報通信機器を駆使した活動が行われるものと考えられます。

長時間労働者に対する面接指導及びストレスチェック制度における面接指導の趣旨を踏まえると、同通達中の「1.基本的な考え方」で示されているように、直接対面によって面接指導を行うことが原則です。しかし、産業保健現場には、円滑な業務推進に影響を及ぼす様々なハードルが存在しています。
このハードルを取り除くために、情報通信機器の活用が有用である場合が想定されます。

面接指導に関する主なハードルとしては、地理的なハードルと心理的なハードルが挙げられます。
地理的なハードルがある状態とは、広大な敷地に建屋が配置されている事業場や分散型の事業場など、相当の移動距離があるためアクセスが困難な状況にあることを意味します。物理的なハードルと言っても良いかもしれません。また、心理的なハードルがある状態とは、労働者が産業保健部門の利用を気がねするなど、心理面でアクセスが困難な状況であることを意味します。
情報通信機器を活用した面接指導は、このようなハードルを引き下げ、面接指導の場への労働者のアクセス改善に寄与するものと期待されます。

ただし、同通達で示されている情報通信機器の要件にあるように、医師が就業上の措置に関する判断を行うことができる情報通信環境である必要があります。画像解像度や通信速度などの諸性能が低めであれば、表情・声色・音声応答時間などの指標を用いた心身の状況の評価に、支障をきたすことが懸念されます。
直接対面にまさる面接指導手法はないものと考えられますが、情報セキュリティを確保するとともに上記の特性を踏まえつつ、面接指導に対する労働者のアクセス向上を図る手段のひとつとして、情報通信機器を用いた面接指導を試みることも、円滑な産業保健活動を推進する上で有用であると考えられます。

産業保健相談員(産業医学) 昇 淳一郎

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