産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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「認知症の新オレンジプランについて」

2017年09月


 最近は定年後の再雇用がすすみ、いわゆる高齢者と呼ばれる世代の方が現役さながらにお仕事をされています。雇用者側としても、年代に合わせた働き方を期待したいところです。
 また、壮年期に当たる40-50代では、ご両親様世代の健康問題が現実的な課題として大きく圧し掛かる頃でもあります。
 今回は、認知症の新オレンジプランに則して現行の認知症支援制度をご紹介します。

 平成27年1月、厚生労働省は関係11府省庁と共同して新たに「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」を公表しました。世界に類を見ない速さで高齢化がすすむ日本が、世界の高齢者施策の手本となるべく、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる平成37(2025)年を見据え、できる限り住み慣れた地域で自分らしく暮らす社会を目指すものです。

 この中で下記7指針が示され、各自治体はこれに沿って施策を進めていきます。県内でもっとも高齢化率が低い松山市においても、平成28年6月末で高齢化率が26%を超え、そのうち12.8%が認知症自立度II以上の要介護認定者でありました。

1.認知症への理解を深めるための普及・啓発
 正しい知識と理解を持ち認知症当人や家族を支援する「認知症サポーター」を養成するものです。企業や団体、地域単位で理解を進める目的で、市町や社協などにご相談頂ければ研修会を受けることが出来ます。受講者には認知症サポーターを示す「オレンジリング」が渡されます。啓発活動の一環として、事業所単位で是非ご参加ください。

2.認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
 身体的・精神的容態に応じて適時適切に切れ目なく提供される「循環型」サービスを目指します。おかしいなと感じたら、速やかな受診や相談を行いましょう。早期発見して早期対応をすることが必要です。

3.若年性認知症施策の強化
 働く世代でも、残念ながら認知症は始まることがあります。始めはうつ病や自律神経失調症と思われて見過ごされることがあります。住宅ローンや子供の養育費用など、経済的な問題もあり、ご家族は大変悩まれます。現在の経済的支援としては、障害年金(精神)や高度障害認定によるローン免除などが活用できます。専門医にご相談ください。

4.認知症の人の介護者への支援
 老老介護や認認介護、事故の際の賠償責任問題など、介護者を取り巻く環境は厳しい状況です。身体的・精神的・経済的など様々な側面で介護負担は大きく、「介護うつ」や「虐待」などの事例につながります。相互に情報を共有しあう「認知症カフェ」の利用などが推奨されています。

5.認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
 市町により若干制度に差はありますが、松山市では「徘徊高齢者家族支援サービス事業」として、小型の電波発信機を小額利用料で貸与しています。「認知症高齢者SOSネットワーク(お守りネット)事業」では、行方不明時の捜索協力や地域見守り協力を企業や団体などが事前登録して協力されています。
 認知症に関する相談窓口や制度一覧を掲載した「認知症ケアパス」冊子は、広く市民に周知する目的で、地域包括支援センターに配布されていますので、是非ご参照ください。
 成年後見制度は、判断能力が不十分な際に法律面や生活面で保護・支援する制度であり、上手に活用して頂きたい制度です。医療機関や司法書士、弁護士さんにご相談ください。
 H29年3月に施行された改正道路交通法により、運転免許更新に関する診断書提出命令が増えました。抗認知症薬を処方されている方は、原則運転は禁止となります。充分にご留意ください。

6.予防・診断・治療法、リハビリ・介護モデル等の研究開発
 医療・介護・福祉の各領域で、最新の治療方法や介護方法の研究が進められています。

7.認知症の人や家族の視点重視
 これまでの認知症施策は、認知症の人を支える側の視点に偏りがちであった反省から、国の施策を見直す際に、家族や当事者の意見を取り入れることになりました。当事者からの積極的な発言が、各施策に反映されていきます。

 以上、国の新オレンジプランに沿って、行政の取り組みを紹介しました。
 今後、高齢労働者は確実に増加していきます。若いときと異なり、視覚や聴覚、反射神経はどうしても低下するものです。高齢者の体力や特性にあった働き方や環境を考えて行く必要があります。認知症に関しても皆様に関心を寄せて頂ければと思います。

牧 徳彦 産業保健相談員(メンタルヘルス)

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