産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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「新入社員のメンタルヘルス ~5月病にご注意下さい~」

2018年04月


 新年度が始まり、この4月から沢山の企業に多くの新入社員が入社されたことでしょう。また心機一転、転職して新しい職場で働くという方も居られるでしょう。異動や転勤などで、環境が変わるという方もいらっしゃると思います。
 この季節は1年を通して非常に気持ちが良く、既に各地で桜も満開を迎えています。皆様は希望と夢を胸に抱いて新しい生活に心を躍らせていることでしょう。
 ただ、一方で季節・時候の変わり目に体調を崩される方も居られるのも事実です。昔から「新緑の季節」は「木の芽どき」と呼ばれて体調や精神面に不調を来たしやすい時期だと言われます。春先は寒暖の差が激しく、自律神経のバランスに影響を与えて「疲れがとれない、体がだるい」など不定愁訴が増えます。加えて、新しい環境に「何とか適応しよう」「頑張ろう」と無意識に無理を重ねてしまうこともあります。
 まさに、春は「期待」と「不安」の両極をはらんだ時期とも言えます。この時期に、自分が思うように上手く適応出来なかった場合、憂うつな気分に陥ることがあります。これが俗に言う「5月病」です。
 当初、5月病という言葉は、おもに新入学の大学生において5月連休明けから出現してくる心身の不調を指す社会医学用語でした。それが、次第に新入社員(新社会人)にも広く用いられる概念となりました。今では、5月頃まで研修を受けた社員が配置先で実際に業務が開始される6月に心身の不調を訴える「6月病」という言葉まであります。
 そもそも「5月病」は正式な医学用語ではありません。5月病あるいは6月病という診断書は存在しません。医療機関において、医学的にこの状態を表すとすれば、うつ病(うつ状態)や適応障害、不安性障害、自律神経失調症、心身症の範疇になると思われます。
 入社時の健康管理教育はとても重要です。社会人と学生の違い、職場の健康管理、生活習慣の振り返り、ストレス対策等を学び、いわゆるセルフケアが出来るように指導することが望まれます。メンタルヘルスに関しては、社員自身が関心を持ち、メンタル不調への気付きや、気付いた際の相談手順を身に付けて頂きたいものです。ストレスチェック制度を説明する際も良い機会になります。
 新しい生活パターンへの対応、とくに人間関係の変化は想像以上に心身への影響が大きいものです。新しい配属先の仕事(上司)が合わない、残業が多い、ノルマが厳しいといった職場環境や、転居や単身赴任など生活環境の変化もストレス因になります。
 最近、当院で経験した事例は「2年目の燃え尽き」でした。真面目な性格で体育会系の若い男性会社員でしたが、懸命に頑張ったつもりが1年を振り返ったとき、「2年目の目標が持てない」と自責の念に駆られて抑うつとなり自己都合退社されました。
 一時的な不安や抑うつ、不眠などは多くの方が経験しますが、特にこの時期には充分注意して「何かがおかしい」と感じたならば早めに専門医療機関にご相談下さい。

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