産業保健コラム

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有機溶剤中毒予防規則第29条健康診断関係

2018年06月


 有機溶剤中毒予防規則第29条の健康診断を実施される場合、平成元年8月22日付基発第462号通達を参考としてください。

Ⅰ 有機溶剤中毒予防規則関係

1 従来の一次、二次の健康診断の区別を廃止し、必ず実施すべき健康診断項目と医師が必要と判断した場合に実施しなければならない項目にしたこと(第29条関係)。

2 すべての有機溶剤等に共通の健康診断項目に加えて、一定の有機溶剤等については、それぞれの有機溶剤等に対応し、貧血に関する検査、肝機能に関する検査、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査及び眼底検査を必ず実施すべき健康診断項目として定めたこと(第29条、別表関係)。

3 尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査は、必ず実施すべき健康診断項目として有機溶剤の種類に応じその検査内容を定めたこと(別表関係)。

4 貧血に関する検査としては、従来全血比重の検査及び血色素量、ヘマトクリット値又は赤血球数の検査を行っていたが、このうち全血比重の検査及びヘマトクリット値の検査を廃止し、必ず実施すべき健康診断項目として血色素量及び赤血球数の検査としたこと(第29条、別表関係)。

5 肝機能に関する検査としては、従来ウロビリノーゲンの検査を行っていたがこれを廃止し、必ず実施すべき健康診断項目としてGOT、GPT及びγ―GTPの検査としたこと(第29条関係、別表関係)。

6 健康診断項目の改正に伴い、健康診断個人票及び健康診断結果報告書の様式の改正を行ったこと(第30条、第30条の2関係)。

Ⅱ 有機溶剤中毒予防規則関係

1 第29条(健康診断)関係

(1) 第二項第二号関係

イ 「有機溶剤による健康障害の既往歴の調査」とは、過去に有機溶剤による貧血、肝機能障害、腎機能障害、末梢神経障害等の健康障害があったかどうかを調査することをいうこと。

ロ 「有機溶剤による自覚症状及び他覚症状の既往歴の調査」とは、過去に有機溶剤による別添の表一の症状のそれぞれがあったかどうかを調査することをいうこと。

ハ 「尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査」とは、有機溶剤中毒予防規則別表(以下「有機則別表」という。)下欄の「尿中のメチル馬尿酸の量の検査」、「尿中のN―メチルホルムアミドの量の検査」、「尿中のマンデル酸の量の検査」、「尿中のトリクロル酢酸又は総三塩化物の量の検査」、「尿中の馬尿酸の量の検査」、「尿中の二・五―ヘキサンジオンの量の検査」をいうこと。

ニ 「既往の異常所見の有無の調査」とは、過去の貧血に関する検査、肝機能に関する検査、眼底検査、腎機能に関する検査及び神経内科学的検査における異常所見の有無を調査することをいうこと。

(2) 第二項第三号関係

 第二項第三号の「有機溶剤による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査」は、有機溶剤による生体影響等健康への影響を総合的に把握するうえで重要な検査である。この検査の結果は、医師が必要と認める場合の健康診断項目の実施や医師が必要でないと認める場合の健康診断項目の省略等の判断の際の重要な基準ともなるものであるので、別添の表一に掲げる症状のすべてについて、その有無を確認しなければならないものであること。

 なお、適宜問診票を用いても差し支えないが、その際には医師による全症状にわたる十分な問診を行うべきものであること。

(3) 第三項関係

 第三項は、有機則別表に掲げる有機溶剤等の種類に応じ、貧血の検査として血色素量及び赤血球数の検査、肝機能の検査としてGOT、GPT及びγ―GTPの検査、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査又は眼底検査を行うことを規定したものであること。

 また、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査のための尿の採取には、各物質ごとに適切な時期があり、その保存には適当な方法があるので別途示すところによること。

(4) 第四項関係

 第四項の規定に基づき、医師が必要でないと認めて健康診断項目を省略する場合には、別途示すところによること。

(5) 第五項関係

イ 第一号の「作業条件の調査」は、従来有機則別表に定められていたが、新たに、医師が必要と認める場合に行う項目として規定したこと。

ロ 第二号の「貧血検査」とは、有機則別表の(一)に掲げる有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査以外の貧血に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査を含む貧血に関する検査をいうこと。

 貧血に関する検査には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。

ハ 第三号の「肝機能検査」とは、有機則別表の(二)、(四)、(六)に掲げる有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTP以外の肝機能に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTPの検査を含む肝機能に関する検査をいうこと。

 肝機能に関する検査には、GOT、GPT、γ―GTPの検査以外に血清の総蛋白、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ、乳酸脱水素酵素の検査等があること。

ニ 第四号の「腎機能検査」には、尿中蛋白量、尿中糖量、尿比重の検査、尿沈渣顕微鏡検査等があること。

ホ 第五号の「神経内科学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること。

2 様式第三号の二関係

 有機溶剤等健康診断結果報告書の様式を健康診断項目ごとに、その実施者数、有所見者数を報告させるものに改めたこと。また、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査については、その結果を三つの分布に区分して報告させることとしたこと。

 なお、この分布の区分は、正常・異常の鑑別を目的としたものではないこと。

別 添

表一 有機溶剤による自覚症状及び他覚症状

1 頭重、2 頭痛、3 めまい、4 悪心、5 嘔吐、6 食欲不振、7 腹痛、8 体重減少、9 心悸亢進、10 不眠、11 不安感、12 焦燥感、13 集中力の低下、14 振戦、15 上気道又は眼の刺激症状、16 皮膚又は粘膜の異常、17 四肢末端部の疼痛、18 知覚異常、19 握力減退、20 膝蓋腱・アキレス腱反射異常、21 視力低下、22 その他

 

必ず実施すべき項目

1.業務の経歴の調査

2.
・有機溶剤による健康障害の既往歴の調査
・有機溶剤による自覚症状および他覚症状の既往歴の調査
・有機溶剤による5~8及び10~13に掲げる異常所見の既往の有無の調査
・4の既往の検査結果の調査自覚症状または他覚症状の有無の検査

3.自覚症状または他覚症状の有無の検査
4.尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査
5.尿中の蛋白の有無の検査
6.肝機能検査(GOT,GPT,γ-GTP)
7.貧血検査(赤血球数、血色素量)
8.眼底検査

(9~13は医師が必要と判断した場合に実施しなければならない項目)

9.作業条件の調査
10. 貧血検査
11. 肝機能検査
12. 腎機能検査(尿中の蛋白の有無の検査を除く)
13. 神経内科学的検査

※4の検査については、年2回の検査のうち1回については医師の判断で省略することが出来る。
※自覚症状または他覚症状については、医師が次の項目のすべてをチェックしなければなりません。
1.頭重 2.頭痛 3.めまい 4.悪心 5.嘔吐 6.食欲不振 7.腹痛 8.体重減少 9.心悸亢進 10.不眠 11.不安感 12.焦燥感 13.集中力の低下  14.振戦 15.上気道又は眼の刺激症状 16.皮膚又は粘膜の異常 17.四肢末端部の疼痛 18.知覚異常 19.握力減退  20.膝蓋腱・アキレス腱反射異常  21.視力低下 22.その他

代謝物の量の検査、肝機能検査、貧血検査、眼底検査を実施しなければならない有機溶剤

 

検査項目

代謝物

肝機能

貧血

眼底

キシレン、スチレン、トルエンl・l・l-トリクロルエタンノルマヘキサン

N・N-ジメチルホルムアミド、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン

クロルベンゼン、オルトジクロルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素1・4-ジオキサン、1・2-ジクロルエタン、1・2-ジクロルエチレン、I・I・2・2-テトラクロルエタン、クレゾール

エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコール、 モノブチルエーテル、エチレングリコール、モノメチルエーテル

二硫化炭素

※上記指定の有機溶剤が5%を超えて含有されている物質を製造または取り扱う場合にも検査が必要です。

 

代謝物の検査内容

対象物質名

検査内容

キシレン

尿中メチル馬尿酸

スチレン

尿中マンデル酸

トルエン

尿中馬尿酸

I・I・I-トリクロルエタン

尿中トリクロル酢酸または総三塩化物

ノルマルヘキサン

尿中2・5-ヘキサンジオン

N・N-ジメチルホルムアミド

尿中N-メチルホルムアミド

トリクロルエチレン

尿中トリクロル酢酸または総三塩化物

テトラクロルエチレン

尿中トリクロル酢酸または総三塩化物

 

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