産業保健コラム

近藤 亨子 相談員

    • 保健指導
    • 元 愛媛産業看護研究会 会長
      ■専門内容:産業保健指導・産業看護・事業場における治療と職業生活の両立支援
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「食中毒」の対策について考えてみましょう。

2018年07月


 食中毒は「食品に起因する胃腸炎・神経障害などの中毒症の総称」と定義されており、多くは、急性の胃腸障害(嘔吐、腹痛、下痢などの症状)をおこします。食べ過ぎ・飲み過ぎでお腹が痛くなったり、下痢になることもありますが、これは食中毒とは言いません。食中毒は、有害な微生物や化学物質を含む飲食物を食べた結果生じる健康障害のことを指します。
 食中毒の発生状況(2017年)を見ると、件数が最も多いのは細菌による事例で件数は449件、全体の44.3%を占めています。次が寄生虫で件数242件(23.9%)、3位がウイルスで221件(21.8%)となっています。
 また、食中毒は夏場に多いイメージがあるかもしれませんが、年間を通じて発生しているといえます。冬場の患者数が多いのは、感染力の強いノロウイルスによる食中毒が冬場に多く発生しているからだと考えられています。

<30.6.28付報道 腸炎ビブリオ食中毒注意報がでています>
 夏の暑い時期を迎え、愛媛県内に「腸炎ビブリオ食中毒注意報」が発令されました。魚介類の調理などで注意が必要です。腸炎ビブリオは海に生息する細菌で、魚介類などから人に移り激しい腹痛や下痢を伴う食中毒を引き起こします。海水温の上昇に伴い大量に増殖するため、暑くなる時期に特に注意が必要で、県と松山市では、県内で夏日が3日以上続き、沿岸の海水温が20度を超えたことから、6月27日「腸炎ビブリオ食中毒注意報」を発令しました。期間は9月末までで、原因菌が真水や熱に弱いことから、県などでは調理の際、魚介類を流水でよく洗うことやまな板の消毒などを呼びかけています。

◇食中毒にはどのような種類があるのかな?

 食中毒は、その原因になったもの(病因物質)によって、次のように分類されます。

1.細菌性食中毒

 ●感性性:サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、ウェルシュ菌、エルシニア、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(0157など)、3類感染症(チフス菌、赤痢菌、コレラ菌など)・・・・
 食品内で一定菌数以上に増殖した原因菌を摂取し、腸管内で感染することによって発症します。
 ●毒性型:黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌・・・・
 食品内で原因菌が増殖する際に毒素を産生し、その毒素を食品とともに摂取することによって発症します。

2.ウイルス性食中毒:ノロウイルス、A型肝炎ウイルス ・・・・

 ウイルス性食中毒のうちほとんどが「ノロウイルス」によるものです。
 ノロウイルスは食中毒と感染症の両方を引き起こすウイルスです。食中毒においても、ノロウイルスに汚染された食品だけでなく、感染したヒトの手指などを介して食品に付着する二次感染が増えています。
 ノロウイルスに限らず、発症菌量が少ないと考えられている病原体(腸管 出血性大腸菌やサルモネラ・エンテリティディス、カンピロバクターなど)への対策も考慮すると、「菌をつけない」こと、つまり「手指や調理器具類 等を清潔に」保ち、「食品への二次汚染を起こさないようにする」ことが非常に重要であるといえます。

3.寄生虫食中毒:アニキサス、クドア、サルコシスティス、・・・

 食品には、いろいろな種類の寄生虫が存在することがあり、中には人が食 べると激しい痛みや嘔吐などの症状を起こすものもあります。寄生虫の多く は加熱または冷凍すれば死滅します。そのため、対策としては加熱調理が有 効です。また、刺身など生食する場合は冷凍・解凍後のものが安心です。
 近年、寄生虫による食中毒が増加の傾向にあり、特に、アニサキスによる 食中毒が著しく増加しています。

4.化学性食中毒:水銀、ヒ素、ヒスタミン(青魚) ・・・・

5.自然毒食中毒
 ●動物性:フグ毒、貝毒 ・・・・
 ●植物性:毒キノコ、ジャガイモの芽 ・・・・

◇食中毒菌が増殖する3条件とは

1.栄養
 ヒトにとって栄養となる食品は、細菌にとっても栄養源となります。調理 器具類では、食品の残さや汚れが細菌にとって栄養源となります。

2.水分
 細菌は食品中の水分を利用して増殖するため、適量の水分の存在が不可欠 です。

3.温度
 ほとんどの細菌は、10~60℃で増殖し、36℃前後で最もよく発育します。
 分と栄養と温度の3つの条件がそろい、時間が経つと、細菌が増殖し、食 中毒が発生する可能性が高くなります。

 この3つの条件がそろい「時間」が経つと「食中毒発生!!」

◇食品取扱従事者の健康管理

 調理従事者を介して食品が汚染され、食中毒が発生した事例がこれまでに数多く報告されています。食品を取り扱う業務に従事する人は、健康管理につとめ、健康で清潔な状態を保ちましょう。

 ●職場では、毎日の健康チェックをおこない、記録をつけましょう。
  便の状態、腹痛、発熱、発熱をともなう喉の痛み、やけどや切り傷等の感染を伴う皮膚の外傷、 吐き気、おう吐又は病的な耳だれや目やに、鼻水等の症状等のチェックをしましょう。
  従事者が、食品を介して感染する病気にかかった又はかかったおそれのあることが明らかに なった場合の措置は、病気や症状の程度に応じて講じることが必要です。
   1)マスク、手袋、帽子等を着用させて、作業をさせる。
   2)食品等に直接接触しない作業場へ一時的に異動させる。
   3)作業を休ませる。
 ただし、これらの措置は、従事者が十分に理解し、納得した上で対応するものであり、従事者に解雇等の不利益が生じないよう配慮する必要があります。
 また、従事者のどのような症状に対して、どのような措置をとったかを記録、保存しておくことが望ましいものです。

●検便検査
 労働安全衛生規則第47条で、「給食従事員の検便」が示されており、「給食業務に従事する労働者に対象に、雇入れの際または配置換えの際に実施する」となっております。
 また、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理従事者等には汚染を防止するため定期的な検便検査が不可欠とされ、臨時職員も含め月1回以上の検便をうけることとされています。検便検査項目として、腸管出血性大腸菌の検査および必要に応じ10月から3月には、ノロウイルスの検査を含めることとされています。

●手洗いの実施 = 食中毒予防の基本は手洗いです。
☆手洗い方法
 1)流水でよく手をぬらした後、石鹸をつけ、手のひらをよくこする。
 2)手の甲を伸ばすようにこする。
 3)指先・爪の間を念入りにこする。
 4)指の間を洗う。
 5)親指と手のひらをねじり洗いする。
 6)手首も忘れず洗う。
 7)十分に水で流す。
 8)清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かす。
 9)消毒用アルコールを手指にすりこむ。
 手順1)~6)までの手順を繰り返し2度洗うとより効果があります。

☆手洗いのポイントは
 ・爪は短く切っておきましょう。
 ・腕時計や指輪ははずしましょう
 ・薬用石けん、逆性石けんを使うとより効果があります。(ただし、ノロウイルスに対しては十分な効果が実証されていません)
 ・石けんはよく泡立てましょう
 ・消毒用アルコールは手の水気をとってから使いましょう

☆手洗いのタイミングは、
 ・調理を始める前
 ・トイレの後
 ・食材が入っていたトレイや包装材などに触れた後
 ・調理作業中に
  ◎生鮮食品に触れた後(肉、魚など)
  ◎そのまま食べるもの(サラダ・和え物・刺身・玉子焼き・漬物など)の調理や盛付をする前

◇食中毒予防の3原則

 1.食品に菌をつけないよう清潔を心がけましょう。
 2.食品についた菌が増えないよう、迅速な調理・提供と冷却を心掛けましょう。
 3.食品は中心部が75℃で1分間以上加熱。

 家庭でも手洗いの励行を行い、食中毒予防の3原則を守り、食中毒を予防しましょう!!
 食中毒かなぁ~と思ったら、自分で判断せず、医療機関に受診しましょう!!

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