産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

改正・リスクアセスメント指針-33 管理的(作業管理)対策-1

2018年07月


 今まで、リスク低減措置について、説明してきました。
 まず、安衛法令(安衛則、特化則、有機則等)に定められた措置がある場合には、法令に基づく措置を講じること。(安衛法・第57条の3 第2項)

 法令に定められた措置がない場合は、各事業者の判断により、労働者の危険又は健康障害を防止するために必要な措置を講じるよう努めること。
 この必要な措置については、一般的な優先順位に従って、次のとおり説明してきました。

1. 発生源対策→やめられないか、替えられないか・・・本質安全化
 (1).有害な作業を廃止・変更、有害性が高い物の使用中止
 (2).有害性のより低い物への代替
 (3).化学反応のプロセス・作業方法の改良、運転条件(温度、圧力等)を変更し発散量を減らす
 (4).取り扱う化学物質等の形状の変更(例・粉から粒に変更)等で、発散量を減らす

2. 衛生工学的対策で、有害物が作業場に飛散・拡散しないようにする
 (1).発生源の密閉化、隔離・・・臭いものには蓋をする
 (2).局所排気装置、プッシュプル型換気装置等・・・出たらその場でとる
 (3).全体換気装置・・・出たものは薄める

 今月は、以上のような対策を実施しても、十分にリスクを下げることができない場合に、次の対策として検討する管理的(作業管理)対策を説明します。

 化学物質の管理的(作業管理)対策としては、化学物質による健康影響を無くする(少なくする)ために、作業の内容や作業の仕方を管理することであり、作業実態を把握した上で、以下の措置が適切に実施されるように、作業方法を改善し、教育・訓練・フォロー等を実施し、作業者に徹底することです。

1. 作業環境改善設備(密閉、局所排気装置等)を正しく使って作業する。
 いくら性能のよい設備を設置しても、適切に使用されなければ、リスクを低減することはできない。

2. 作業環境を汚染させない作業方法を定め、作業標準、作業手順等としてマニュアル化する。
 化学物質の発散の少ない作業手順に見直す、こぼれたら直に拭取る等。

3. 労働者の体内に吸収される化学物質の量(ばく露量)を少なくするような作業方法を定める。
 ばく露時間管理、ばく露の少ない作業位置・姿勢、立入禁止措置等

 これら以外に、保護具の着用も作業管理に含まれますが、これについては後述します。

 又、適正配置についても考慮することが必要です。
 作業者には、化学物質に過敏な人もいますので、人の側の要因についても考慮して、その作業につけるにあたって適性であるかの判断をして配置
することが必要です。

 安衛法では、作業管理については、次のように規定しています。
 第24条  事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
 第65条の3 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。
 第62条 適正配置について、
  事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない。

 これらの管理的(作業管理)対策は、大きなリスクには適していません。
 リスクアセスメントにおいては、管理的(作業管理)対策は、工学的対策を補完するためのものと位置づけられています。

 具体的には、リスクアセスメントの結果で、生死にかかわるような大きなリスクがあった場合には、その対策として管理的(作業管理)対策だけでは、リスクを下げないようにしています。

 それは、ばく露時間管理、マニュアル整備、教育・訓練、保護具等の対策は、守られたらリスクは低減しますが、守られない場合は、作業者の生死に関わる大きなリスクが残ることになるからです。

 個人の任意性に委ねるような対策では、「面倒だから、邪魔だから、時間がかかるから、だれも見ていないから、以前も問題なかったから」等々によって、守られない可能性があり、対策の効果に信頼が置けません。

 しかし、これらの対策の実施が徹底できれば、大きな効果が期待できます。

 次回から、化学物質の管理的(作業管理)対策の具体例を説明します。

記事一覧ページへ戻る