産業保健コラム

武田 良平 相談員

    • メンタルヘルス
    • しののめクリニック 院長
      ■専門内容:心療内科・精神保健
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「自殺予防週間」に寄せて

2018年09月


 ご存知の方もおられると思いますが、9月10日~9月16日は、「自殺予防週間」です。

 精神科医療に携わる者として、夏から秋に変わるこの時期に行うのは、意義のある事だと思います。この期間に国、地方公共団体が、活動を広く展開し、それにふさわしい事業を実施するように努めます。目的は、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現です。

 各団体の長年の活動は、実を結び、自殺率は年々、減少傾向にありますが、依然、自殺者はなくならず、日本では、高齢者の自殺率が高いといわれております。今年2月に日本精神神経科診療所協会(日精診)の自殺調査における「高齢者自殺の特徴について」の講演があり、内容を紹介します。

 まず、高齢者の自殺は男性が多く、平成元年~平成28年までの警視庁の報告では、男性が約7割で、世界的にも同じ割合です。女性の自殺率は大きな変化がなく、男性の自殺者が減った事が、全体の低下になっています。年代別にみると男性の自殺者は40代と50代の働き盛りの年代にピークがあり、その後はだんだん減ってきます。女性の場合は、男性のようなピークはなく、40代~60代にかけて、なだらかな増加傾向を認めます。60歳以上を高齢者とするのは、意見の分かれるところですが、60歳以上の自殺者の割合は、年々少しずつ増加しております。大体、全体の40%になり、疾患別にみると「うつ病」が、約8割になります。やはり、「うつ病」を早く見つけ、治療する事がとても重要です。精神科にかかっている患者さんの場合は、自殺率が23~24%との報告があり、少ない傾向にありますが、残念ながら完全には防ぐ事は出来ておりません。一方で、精神病性障害やパーソナリティ障害の自殺の割合は、かなり少なくなります。若い時に発病し、苦しい時を何とか乗り切れば、年を取って自殺という問題はあまりなくなるとも言えます。自殺者の生活状況ですが、同居者がある方が、76%となっており、一人暮らしの方が多いイメージとは違った結果となっています。埼玉県の調査では、家族の介護が関係した自殺は、7%弱で、全体の割合としては少なく、同居する家族との関係が大切な事を示唆しています。遺書から調べた報告でも、動機は半数以上が健康問題ですが、家庭問題も多いといわれています。自殺した方の中で自殺企図の既往のある人を日精診で調べた結果、60歳以上では、2割と少なく、8割の人は、急な出来事で予想が難しい結果となっております。

 今も高齢者の自殺の問題は続いており、今後はご家族、介護の方、かかりつけ医などが連携して、うつ病を見つけ、治療に繋げる事が、良い方法と思います。先日、高齢者の世話をしている代表の方と話をしました。その方は、色々な行事を企画して、参加を促したり、多くの活動をしており、「なかなか大変ですね」と話すと「でもね、お年寄りの方は、目的とか目標があると全然変わるんですよ。それが楽しみでもあるんです」と言われ、なるほどなぁと感銘を受けました。あなたも高齢者で、以前は絶望していた時があったのに、、、今、生き生きとされているのは、そうゆう事なんですねと心の中で納得が出来て、何かヒントをもらったような気持ちになりました。

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