産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-36 ソフト面からの対策-4

2018年10月


化学物質が皮膚から体内へ侵入する「経皮吸収」について説明します。

Ⅱ. 経皮吸収によるばく露対策
  外用薬が皮膚から浸透して薬効を発揮するのと同様に、化学物質の液
  体・粉体・ガスが皮膚に触れる(付着する)と、皮膚から吸収されます。
  これを経皮吸収と言い、化学物質によって吸収の程度は異なります。
  有機溶剤とその蒸気等は、経皮吸収作用を持ものが多くあります。

  経皮吸収のルートは、(1).角質細胞や角層細胞間脂質を通過、又は
            (2)皮脂腺、汗腺を経由するものです。
  経皮吸収量は、化学物質の濃度、皮膚接触面積、接触時間等が影響し
  ます。

経皮吸収を防ぐための一般的な留意点としては、
1. 汚れ落としのために、化学物質(溶剤)を用いて、手を洗ったり、拭いたり
  また、衣類等を洗うことは厳禁です。

2. 化学物質を手で取扱う作業は、必ず不浸透性の材質の化学防護手袋
  を使用する。

3. トラブル時等の異常ばく露の防止としては、
  化学物質が飛散し、被服等に大量に付着した時は、浸透による経皮吸
  収だけでなく、付着した被服からの蒸発によるばく露もありますので、
 (1)早く衣服を脱がせ、着替えさせる(常に着替えの用意をしておく)
 (2)化学物質が付着した患部(皮膚)を洗う。
  シャワー等を浴びさせ(場合によっては風呂に浸かって)、石鹸水等
  で体表面の化学物質を早く除去する。(洗眼、洗身設備を設置)
 (3)トラブル時に、被害を最小限に抑えるために、取扱量は当日の作業
  に必要な量だけ持込むようにする。

4. 長袖の作業服を着用して、皮膚を露出しないようにする。
  有害性の強い化学物質を取り扱う場合は、化学防護服を着用すること
  により皮膚からの侵入を防ぐ。

経皮吸収による職業がん等を防止のための規制強化

   福井県の事業場で、オルト-トルイジン等の化学物質を取り扱う作業に従
  事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案の原因調査の
  結果、オルト-トルイジンに汚染された保護手袋の使用等により、長期間に
  わたり経皮ばく露があったことが示唆されました。

  これに伴い、化学物質が皮膚に接触し体内に吸収されることによる職
  業がん等の発生を防止するため、特化則、安衛則の規制が強化され
  ました。
  この規制(経皮吸収対策)の概要は、一定の特定化学物質について、
  皮膚に障害を与えたり、皮膚から吸収されることにより障害をおこす
  おそれがある作業では、保護眼鏡、不浸透性の保護衣(化学防護服)
  保護手袋(化学防護手袋)、保護長靴等、適切な保護具を備えること。
  労働者は、これを着用すること。
  具体的には、以下のとおりです。

 保護衣等→改正部分はH29年1月から適用
1.有害物全般(安衛則第594条)
  これまでは、中毒が対象でしたが、今回の改正で、健康障害全般が
  対象になった。
  事業者は、次の業務では、労働者のために、塗布剤、不浸透性の保
  護衣、保護手袋または履物など適切な保護具を備えること。
  ・皮膚障害を与える物を取り扱う業務
  ・皮膚からの吸収・侵入で健康障害や感染をおこすおそれのある業務

2 特定化学物質(特化則第44条)→ (2)(3)は、H29年1月から適用
 (1)事業者は、皮膚障害等のおそれのある特定化学物質を取り扱う作業
  等については、労働者のために、事業者は不浸透性の保護衣、保護
  手袋および保護長靴、ならびに塗布剤を備え付けること。

  対象物質→特定化学物質で皮膚に障害を与えたり、皮膚から吸収され
         ることにより障害をおこすおそれのあるもの。
         ジクロルベンジジン、アクリルアミドなど
  対象作業→特定化学物質を製造する作業、取り扱う作業、それらの周
         辺で行われる作業。

 (2)事業者は、一定の特定化学物質について、皮膚に障害を与えたり、
  皮膚から吸収されることにより障害をおこすおそれがある作業では、
  労働者に保護眼鏡、不浸透性の保護衣(化学防護服)、保護手袋(化
  学防護手袋)および保護長靴を使用させること。

  対象作業には、次のものが含まれます。
  ・特定化学物質に直接触れる作業
  ・特定化学物質を手作業で激しくかき混ぜることにより身体に飛散す
   ることが常態として予想される作業

 (3)労働者は、保護衣等の使用を命じられたときは、これを使用しなけれ
  ばならない。

 洗浄設備(特化則第38条)→ (2)(3)は、H29年1月から適用
  保護衣等で防護をしていても、また、予期せず、身体に化学物質が接
  触することがあるため、特定化学物質の第1類物質や第2類物質につ
  いて、次の措置を講じること。

 (1)事業者は、第1類物質や第2類物質を製造したり、取り扱う作業に労
  働者を従事させるときは、洗顔、洗身またはうがいの設備、更衣設備
  および洗たくのための設備を設けること。
 (2) 事業者は、労働者が第1類物質や第2類物質に汚染されたときは、
  身体を速やかに洗浄させ汚染を除去すること。
 (3) 労働者は、洗浄を命じられたときは、その身体を洗浄すること。

 第3類物質については、避難訓練や救護組織の確立に努めるとともに、
  接触しないよう、所定の漏えい防止措置を講じること。
  もし、皮膚に接触した場合は直ちに洗浄をすること。

 この経皮吸収対策については、次号で詳細に(対象物質等)説明します。

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