産業保健コラム

昇 淳一郎 相談員

    • 産業医学
    • 松山記念病院 医師
      ■専門内容:産業医学・精神保健
  • ←記事一覧へ

産業保健活動を原価低減に結び付ける

2012年09月


労働安全衛生法の第一条に規定されている通り、産業保健活動の目的として、「(労働災害の)防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに快適な職場環境の形成を促進すること」が挙げられます。産業保健スタッフが事業主や職場担当者等に対して行う勧告あるいは改善要請は、この労働安全衛生法の目的と正に一体化したニュアンスを持って発信される場合がほとんどであろうかと思います。しかし、場合によっては、当該勧告あるいは改善要請内容が、受け止め側である事業主や職場担当者等を当惑させる、あるいは、関係者に拒否感を抱かせることがあり得ます。そのような事態を招く背景として様々な事情が推察されますが、産業保健スタッフから発信される勧告あるいは改善要請が組織運営上のコスト増大要因として関係者に認識されがちであるという点も、その重要な要素のひとつとして挙げることができます。

確かに、産業保健スタッフからの勧告あるいは改善要請は、労働衛生管理体制、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育等の強化を求めるものであり、体制の整備あるいは施設、設備の対応等、多大な時間および費用を要するものが多く含まれています。このため、勧告あるいは改善要請が組織運営上のコスト増大要因として受け止められるのも、一部やむを得ないことかもしれません。

このように、産業保健活動が費用を持ち出す傾向が強い活動であると見られがちではありますが、様々なリスクあるいは損失の削減および除去を担う活動であることを考えると、本来的には投資活動として位置づけることが可能です。ただし、産業保健活動を将来投資として位置づけるためには、休業損失等の最小化に直結するものとして各種の産業保健活動関連費用が投下されていることが、その前提条件となります。勧告あるいは改善要請に対する事業主や職場担当者等からの上述の反応は、この前提条件を満たしていないが故に生じている可能性があります。

その前提条件を満たすための方策のひとつとして、標題に掲げた「産業保健活動を原価低減に結び付ける」といった意識を持ちつつ勧告あるいは改善要請を行うことが挙げられます。もちろん、製品やサービスの原価を改善することが産業保健活動の主目的ではなく、産業保健スタッフが原価管理の専門家である必要はありません。あくまでも、労働衛生管理の専門家としてのスタンスで十分です。産業保健スタッフとしての改善提案が、事業主や職場担当者に対し、例えば工数削減等を通じて加工費の原価低減に貢献可能あることを認識させることができれば、上述の対立の構図を解消することにつながる可能性があります。積極的な産業保健活動の展開により従業員の健康度を高め、更には原価低減にも寄与していくといった形での貢献も、意義深いものであるかと思います。

記事一覧ページへ戻る