産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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期待される職場でのメンタルヘルス対策

2012年04月


~あなたもゲートキーパー宣言!~

日本は自殺者数が14年連続3万人を超え、平成22年は、15~19歳と20代、30代の死因の1位が自殺だった。政府は自殺総合対策会議において「いのちを守る自殺対策緊急プラン」を決定した。例年、月別自殺者数の最も多い3月を「自殺対策強化月間」と定め、そのイメージキャラクターに人気アイドルグループ「AKB48」を起用した。確かに話題性は高まったが、自殺対策に資する活動が深まったのかは釈然としない。内閣府自殺対策推進室は「若い人にも自殺対策に関心を持って貰いたかった。AKB48は幅広い層に影響力があるのでお願いした」と説明している。

H23年末に厚生労働省は、事業者に対して労働者のメンタルヘルス対策を義務付ける労働安全衛生法改正案を国会に提出した。新制度のもとでは、労働者は検診時等で医師や保健師のメンタルチェックを受けることになる。そして検査した医師等は、その結果を労働者に通知する。事業者に通知する場合には、労働者の同意を要する。産業医の面接を希望する際には、申し出が必要になる。当然これらの仕組みは、労働者のメンタルヘルス対策の推進を目的とするが、その実施には十分な配慮が必要である。メンタルチェックを実施するには、職場での適切な事後措置を講ずる体制づくりが前提となる。不十分な状況での実施は、むしろ産業保健スタッフに大きな混乱を来す。職場環境改善に活かすべきスクリーニングであるが、わが国には未だ確立されたガイドラインが無い。回答者が、その後の不当な扱いを恐れて、正直に回答をしない場合や面接を申し出ない可能性も、懸念されている。仮にこのような事態に陥った場合、事業者は「メンタルヘルス不調者は居ない」との誤った認識をする危険性がある。精神的な問題に関して未だ偏見の強い現状にあっては、全ての労働者が納得できる仕組みは難しい。心の健康について、安心して話せる社会環境の実現が望まれる。日本産業衛生学会産業精神衛生研究会(2010)の見解を紹介する。

①  心の健康(不調を含む)について理解のある職場風土を醸成するための啓発(教育・研修など)が充分に行われていること

②  衛生委員会での審議を経て、事業場全体での合意を得ること

③  就業面での配慮を含む事後措置の進め方を予め明確にしておくこと

④  情報の取り扱い方法を決め、文書化しておくこと

⑤  精神面の健康状態を適切に評価できる医師による二次検査を受けられる手配をしておくこと

⑥  回答を拒否する労働者に対して、強要してはならないこと

⑦  有効性が確認できない場合の対応も検討すること

⑧  専門職が不在の事業場にも適用できるガイドラインを作成すること

⑨  スクリーニングが産業医の関与する包括的なメンタルヘルス対策の一部であると位置づけられること

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