産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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「アルコール依存症だけではない! パチンコ依存症やスマホ依存症を知っていますか?」

2018年11月


 今迄に担当したコラムの中で、いわゆるニコチン中毒と呼ばれた「タバコ使用による精神及び行動の障害」(2017年2月)や、アルコール依存症(2016年6月)について解説しました。今回は、ギャンブル依存症について述べたいと思います。

 ギャンブル等依存症対策基本法が、本年成立したことを受けて、国と都道府県は「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を今後策定することになりました。本法の中で、ギャンブル等依存症とは「ギャンブル等(法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」と定義されました。本人・家族の日常生活・社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務・貧困・虐待・自殺・犯罪等の重大な社会問題を生じる可能性を指摘しています。

 医学的に「ギャンブル依存症」とは、娯楽で始めたギャンブルが、既に自分に不利益、有害な結果を生じていて、止めたほうががよいと考えることは出来ても、強烈な再体験欲求(渇望)により、自己制御できずにギャンブルを反復継続する状態を言います。
 簡単にいえば、止めたくても止められない状態です。公式病名は「依存症」という表現ではなくて、世界保健機関(WHO)では「病的賭博」、米国での臨床診断基準(DSM-5)では「ギャンブル障害」と表します(ここでは「ギャンブル依存症」で統一します)。
 喫煙(ニコチン)や飲酒(アルコール)への依存症とよく似ていますが、これらは「物質依存」であるのに対して、ギャンブル依存症はパチンコやスロットなどの行為・行動に対して依存するため「プロセス依存(嗜癖)」と呼びます。これらは、症状、経過、治療で同質性があり、脳機能研究面で共通病理の存在を示唆されており、2013年から同じ診断カテゴリーに包含しています。
 ギャンブルは、何かの結果を予想して金銭を賭ける行為で、国や文化、性別や世代により好まれる種目は多様です。わが国では、パチンコ、スロットのゲームマシンが極めて多く、続いて競馬、マージャンです。これは、同遊技場が国内至るところにあり、日常的に楽しめる社会であることを反映しています。平成21年全国調査では、成人男子の9.6%、女性の1.6%と、欧米に比し高率と推計されました。パチンコ好き、麻雀好きが、直ちに病気ではありません。ただ、下記のような場合には要注意です。
 1)ギャンブルへの強烈なとらわれ、2)勝負の結果への慣れ(多少勝っても興奮しなくなり、負けても取り返せると考え、高額な借金も平気になる)3)ギャンブルへの強烈な欲求(渇望)、4)自己制御の困難などです。
 結果として、5)経済的危機・家庭的危機・職業的危機などの心理的社会的問題が随伴し、進行すると自殺や経済犯罪もありえます。
 米国診断基準(DSM-5)はホームページで公開されていますので、ご興味のある方は、各項目に該当するか確認してみてください。
 治療としては、心理的・社会的問題を積極的に取り上げて、内省を通じて人間的な変化・成長を促す必要があります。当事者の会への参加も非常に重要です。ただ残念ながら、ギャンブル依存症には有効な薬物療法は現時点で確立していません。また、ギャンブル依存症の中には、躁うつ病や発達障害、強迫性障害が隠れている場合があります。
 ご家族は大変ご心配されますが、大抵の場合にはどうしていいのか分らず、徒に時間が過ぎてしまいます。周囲が気付いたら早期に保健所や福祉センターなどにご相談下さい。治療開始が遅くなればなるほど、反応は乏しいと指摘されています。速やかに専門医療機関にご相談ください。

 最後に、「スマホ依存症」について、簡単に触れます。
 私は決して依存症を専門に診療しているわけではありませんが、最近多くの患者に遭遇します。パチンコや競輪などが多いのですが、気になるのは高校生や大学生のスマホ依存です。少し前まではネット依存の方が多かったですが、最近は殆どがスマホです。若い世代は物心ついた時からスマホがあります。多くは睡眠障害(寝不足)を併発しており、注意集中力が低下しています。中には、食事をとらずに栄養障害まで来した子供もいました。やはり自己制御能力が弱いようです。子供達の健全な発達・成長のためにも、生活習慣を見直す必要があります。

 

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