産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-1 まずSDSで適用法令を知りましょう

2013年07月


前回までは、化学物質管理について法規制対象であるか否かにかかわらず、リスクアセスメントを実施し、その結果(リスクの大きさ)に基づいて対策を実施するという自主的な管理について説明してきました。 しかし、化学物質による業務上疾病の発生状況を見ますと、リスクアセスメント以前に関係法令を知って守るという基本的なことができていなくて発生している事例が多くあります。

化学物質による業務上疾病は、毎年200~300件程度(休業4日以上)発生しています。 平成23年度は257件で、内訳を業種別で見ると、
建設業(52)、商業・金融・広告業(31)、食料品製造業(26)、化学工業(25)、一般・電気・輸送用機械工業(20)、金属製品製造業(18)、接客・娯楽業(16)となっています(単位は件数)

化学物質による業務上疾病といえば、主に化学工業と思われがちですが、実際は、このように多くの業種で発生していますし、その発生状況をみますと、該当法令を正しく理解し、その法令に基づいて、適正な管理と取り扱いをすれば、防ぐことができたものが少なくありません。 また、業種によっては、取り扱っている化学物質が法令で規制されているとの認識すら十分でなかった事例もあります。

そこで、今回以降は、法に基づいた管理(法規制)を説明します。

化学物質は、その製造から廃棄に至るライフサイクル全般にわたって、危害の未然予防を図るため、多くの法令の規制を受けます。主だった法令だけでも、下記のとおりたくさんあります。

製造・販売・貯蔵・輸送・取扱の段階
「労働安全衛生法」(安衛法)
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)
「消防法」
「毒物及び劇物取締法」(毒劇法)

排出・廃棄の段階
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法)
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃掃法)
「大気汚染防止法」
「悪臭防止法」
「水質汚濁防止法」
「土壌汚染対策法」

また、用途によって、「食品衛生法」 「薬事法」 等の規制を受けます。従って、化学物質を取扱う場合は、リスクアセスメント以前の対応として、その化学物質がどのような法規制を受けるのかを知って、該当法令を正しく理解し、その法令に基づいて、安全・衛生・環境面での適正な管理と取り扱いをすることが必要になります。その化学物質が、どのような法令の規制を受けるかは、SDSを見ればわかります。

SDSは、Safety Data Sheet(安全性データシート)の略称 であり、化学製品の性質を正しく理解し、人や環境に対する有害性や危険性等の性質、取り扱い上の注意、緊急時の措置等に関する情報を記載した説明書で、化学物質を譲渡・提供するときに、相手方に提供することが義務づけられています。 例えば電気製品購入時に付いている取扱説明書のようなものと思ってください。

以前は、MSDS(Material Safety Data Sheet=化学物質安全性データシート)と呼称していましたが、最近になって、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)に合わせて、SDSに変更になりました。(詳細は次号以降で説明します)

SDSに記載する情報には、化学製品中に含まれる化学物質の名称や物理化学的性質のほか、危険性、有害性、ばく露した際の応急措置、取扱方法、保管方法、廃棄方法等が記載されますが、15.「適用法令」という項目に、その化学物質が規制を受ける法令名が記載されていますので、容易に知ることができます。 一例として、胆管がんで問題となっている「1,2-ジクロロプロパン」で見ると、

15.適用法令
労働安全衛生法 :名称等を通知すべき有害物

(政令番号 第254号「1,2-ジクロロプロパン)
(法第57条の2、施行令第18条の2別表第9)
危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号)
法第28条第3項「労働大臣が定める化学物質」
(基安労発第0326002号 H 21.3.26)

(更に以下の法令の適用を受けるとの記載がありますが、ここでは紙面の都合で詳細は省略し、法令名のみ記載します)
化審法 消防法 化学物質管理促進法(PRTR法)  船舶安全法 航空法    海洋汚染防止法  水質汚濁防止法 大気汚染防止法 輸出貿易管理令

臼井繁幸(産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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