産業保健コラム

昇 淳一郎 相談員

    • 産業医学
    • 松山記念病院 医師
      ■専門内容:産業医学・精神保健
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「職場復帰する労働者への心理的支援」をより強固なものに

2013年09月


 国内の多くの事業場では、厚生労働省指針「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」にもとづいた職場復帰支援プログラムが盛んに実施されています。本来的には、同指針を徹底的に実践することで適切な休復職支援が十分に実行可能であるはずなのですが、所期の成果を挙げることができていない実態にあるとも言えます。要因としてはいくつかの事項が想定されますが、今回はその一つとして、現状における”職場復帰する労働者への心理的支援”推進上の課題を軸に考えてみることと致します。

 平成21年3月に改訂された同指針において「6 その他職場復帰支援に関して検討・留意すべき事項」の中に『(6)職場復帰する労働者への心理的支援』の項目があり、管理監督者は労働者の焦りや不安に対して耳を傾ける必要がある旨、記載されています。

 産業保健業務に従事する者の現場感覚としては、この耳を傾ける必要性について職場復帰支援関係者は概ね認識しているものの、それが当の労働者の不安を取り除き、更には労働者の存在意義に関する認識を高めるまでの水準には到達していない現状を、大いに危惧すべきであると感じています。このような状況を打破するためには、同指針の根底に流れる考え方の原点に立ち返り、メンタルヘルス不調労働者本人の立場を真に尊重した職場復帰支援を徹底して推進する必要があるものと考えられます。

 同指針の項目6-(6)に「疾病による休業は、多くの労働者にとって働くことについての自信を失わせる出来事である」と記載されているように、休業した時点で既に一種の喪失体験を背負っている上に、更に、職場復帰自体によって、再び同体験を当の労働者に突き付けるのに近い場面が訪れることが想定されます。その苦しい場面を労働者自身が乗り越えるために、復帰予定職場のメンバーと対面する場面においては、同メンバーから労働者に対して「おかえりなさい」「待っていましたよ」等の当人の存在意義を強化する一言が発せられる中で労働者を迎え入れる環境の整備が理想的であり、産業保健スタッフは、その過程を着実に支援する必要があると考えられます。

 つまり、職場上司および同僚が一丸となった受け入れ態勢を整備することは、職場復帰する労働者への心理的支援を更に強固なものにすることにつながり、結果的に、労働者本人を真に尊重する職場復帰支援の基盤強化となり得ます。

 本人と職場メンバーとの対面場面には時に立ち会いますが、どのケースでも職場メンバーの本人を思う気持ちが伝わり、感動的な光景を目にすることもしばしばです。同指針に言う「周囲からの適切な心理的支援」を徹底して推進することによって、再休業等の予防につなげる必要があると考えられます。

産業保健相談員 昇 淳一郎(産業医学)

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