産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-2 有機粉じんによる肺疾患に注意-(1)

2019年03月


 化学物質の種類を問わず、有害性が低い粉状物質(有機粉じん等)であっても、多量に吸入すれば、肺疾患(肺の繊維化や間質性肺炎等)の原因となります。
 しかし、これらの粉じんに対する危険性の認識は十分とはいえず、ばく露防止対策も疎かになりがちです。
 そこで、樹脂等を製造する工場で、最近発生した有機粉じんによる肺疾患の事例(厚労省発表)を紹介しますので、自職場の見直しの参考にしてください。

事案の概要

1. 平成29年4月、厚労省は、化学工場で粉末状の化学物質の袋詰め作業等をしていた6人が肺疾患(肺組織の繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等)を発症したと発表しました。

 発症者は、A社のB工場の構内請負業者C社の労働者6名。
 発症時の年齢は、20代~40代。
 6名はB工場の作業場で製品(架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の粉末)の包装業務として、投入、計量、袋詰め、梱包、運搬等の作業を行っていた。
 6名は、いずれもC社に雇用されてから他の作業場勤務はなく、当該作業場で継続的に就業していた。

2. 肺疾患は、架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物を主成分とする粉じんを吸い込んだことが原因と推測されています。

 労働安全衛生総合研究所の調査結果(H29/3速報)によると、これまでに、肺疾患を発症した労働者に共通する状況として、同工場内で製造している架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物を主成分とする吸入性粉じんに日常的に高濃度でばく露し、多くがばく露開始から2年前後の短期間の間に肺疾患を発症していたことが判明しています。

 架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物は、医薬品や化粧品を製造する際の中間体で、国際的にも広く使われている。 白い粉末状。
 厚労省によると、肺に対する有害性の文献情報は、これまで確認されてなく、肺組織の繊維化は有機粉じんにより発症するとの確立した知見はなく、安衛法令による措置義務の対象になっていないとのこと。

3. 同種肺疾患の予防的観点からの要請がなされました。

 現時点では、本物質による肺疾患の発生機序等は必ずしも明らかになってはいませんが、同種の健康被害の発生防止を図るという予防的観点から、本物質や類似物質の製造会社(4社)の他、同製造会社等を通じて、本物質の流通先に対して、粉じん吸入防止の徹底、健康診断で肺に所見があった場合の精密検査の実施等下記の要請等がなされました。

(1) ばく露防止措置等の徹底

 本物質を扱う事業場においては、粉じんの発散防止抑制措置や呼吸用保護具の着用等、ばく露防止措置を講じる。

(2) 労働者等に対する健康管理の実施等

 一般健康診断の胸部X線の検査の結果、肺組織の繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等に関する所見があった場合は、CT等の精密検査を実施することが望ましい。
 また、本物質を取り扱ったことのある労働者であって既に退職している者に対して、同検査の受検を勧奨することが望ましい。
 これらの労働者及び退職者についての結果等については、所轄の労働局又は労働基準監督署にご報告いただきたい。

(3) 肺疾患の発生状況の把握と報告

 事業場の労働者又は退職者に、肺組織の繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等の肺疾患が見られた場合は、所轄の労働局又は労働基準監督署にご報告いただきたい。

 現在、発生原因の究明を行うとともに、同種事案がないかの確認と調査が行なわれています。

4. 表示・通知義務の対象外物質でも、粉状物質の有害性情報が的確に伝達されるようにするため、下記の通達(H29/10)が出されました。

 高分子化合物を主成分とする粉状物質に高濃度でばく露した労働者に、肺の繊維化や間質性肺炎等様々な肺疾患が生じている事案が見られることから、表示・通知義務の対象とならない物質であっても、譲渡提供の際にラベル表示や安全データシート(SDS)の交付により粉状物質の有害性情報が事業場の衛生管理者や労働者等に的確に伝達されるようにすること。

5. 上記事案に対して、業務上外を審査する検討会が持たれています。

 本物質を取り扱っている複数の労働者から、肺組織の線維化等の呼吸器疾患が生じたとして労災請求がなされたため、業務と肺障害発症との因果関係(業務上外)を審査する検討会が持たれています。

 次回は、有害性が低い粉状物質の健康障害防止のための取組について説明します。

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