産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-3 有機粉じんによる肺疾患に注意-(2)

2019年04月


今月は、粉状物質の健康障害防止のための取組について説明します。
「粉じん則」や「じん肺法」の対象となっている粉じんの取扱い作業等については、法令に従って健康障害防止措置を講じなければならないのは当然です。

(例)粉じん則・第1条(事業者の責務)
事業者は、粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するため、設備、作業工程又は作業方法の改善、作業環境の整備等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

2 事業者は、じん肺法及びこれに基づく命令並びに安衛法に基づく他の命令の規定による他、
粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するため、健康診断の実施、就業場所の変更、
作業の転換、作業時間の短縮その他健康管理のための適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

 しかし、これらの法令の対象外の有害性が低い粉状物質であっても、先月に説明したように、長期間にわたって多量に吸入すれば、肺障害の原因となり得ます。
粉状物質の一般的な有害性として、多量に吸入した場合に肺内に蓄積することによって、肺の繊維化及びこれによる咳、痰、息切れ、呼吸困難、肺機能の低下、間質性肺炎、気胸等の肺障害(じん肺の諸症状)を引き起こすことが知られています。
高分子化合物を主成分とする粉状物質(有機粉じん)に高濃度でばく露した労働者に、肺の繊維化や間質性肺炎等様々な肺疾患が生じている事例があります。

有害性が低いとされる有機化学物質の粉じん(有機粉じん)には、ポリ塩化ビニル、綿じん、プラスチック微粉末、穀物粉、木材粉じん等が含まれています。

これらの粉じんの許容濃度は、

日本産業衛生学会では、吸入性粉じん、2 mg/m3  総粉じん、8 mg/m3
米国産業衛生専門家会議(ACGIH)では、
肺胞まで到達する吸入性の粉じん 3 mg/m3
気道に沈着する吸引性の粉じん  10 mg/m3

 これらの粉じんに対する健康障害防止措置については、

1. 法令対象外の粉じんについても、適切な措置を講ずるよう努める責務があります
上記の粉じん則・第1条の解釈例規(S54.07.26 基発第382号 通達)では、
「事業者は、じん肺を起こすことが明らかな粉じん以外の粉じんによる健康障害の防止についても適切な措置を講ずるよう努めなければならないこと」となっています。
つまり、事業者には、法令対象外の粉じんについても、適切な措置を講ずるよう努める責務があります。

2. 粉状物質の有害性情報が事業場の衛生管理者や労働者等に的確に伝達されるようにすることが必要です。
粉じんを譲渡し、又は提供する場合は、相手方にラベル表示、SDSの交付等を的確に行うよう努めることが必要です。

安衛則・第24条の14
危険有害化学物質等を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、その容器又は包装に所定事項を表示するように努めなければならない。

安衛則・第24条の15
特定危険有害化学物質等を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付等によって、相手方の事業者に通知するよう努めなければならない。

3. リスクアセスメントを行いリスクに応じた措置を実施することが必要です。
作業環境中の粉じん濃度を測定してばく露量を推定し、法第28条の2に基づくリスクアセスメントを行うこと。
作業環境改善の目標濃度基準は、吸入性粉じんで、2mg/m3とします。

安衛法・第28条の2
事業者は、・・・粉じん等による、・・・有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずる他、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。

参考資料 基安発1024第1号  H29.10.24
粉状物質の有害性情報の伝達による健康障害防止のための取組について

 次回は、ばく露防止対策の具体的な取組について説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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