産業保健コラム

田中 朋子 相談員

「こころの中」をのぞいてみよう!

2019年04月


春は卒業・入学の季節で、子どもが成長し、親元を離れ一人暮らしを始めた家庭も多いのではないでしょうか。子どもが独立した後、母親の役割は終わったなどの気持ちから、空虚感、寂しさを感じる人もいます。新しい環境に適応しようとする子ども、仕事で帰りの遅い夫などをみて「私だけ、なんで…」と疎外感から無気力となり「空の巣症候群」といわれる状態になる人。また、自分の時間ができたと自由に楽しむことができる人もいます。

この人たちのこころの中をのぞいてみましょう。ここには「三つ子の魂百まで」という「幼いころに体得したこころや性格など」がしっかりと生きているという現実があります。以前、当センターの相談員(カウンセリング)である廣瀬一郎先生のセミナーで「こころの生活習慣病」という言葉をお聞きしました。自分にとっては「当たり前」で「(自分の)常識」になっているので気づきはありません。同じような場面で、ワンパターンの思考、感情、行動がみられるのですが、無意識的であり、他者から指摘されても「エッ?」という反応かもしれません。

「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションをいう」とアルベイト・アインシュタインが言われたそうです。私たちは何かあるごとに、この「偏見のコレクション」に従って考え、行動し「やっぱりこれでいいんだ!」と強化しながら日々を過ごしています。この中身について検討してみることが「こころの生活習慣病」への気づきになるでしょう。

意識的でなくても行動できるようになるのが「習慣」であり「(自分にとっての)常識」ですから、自分が意思決定していることに意識的になることが重要です。すぐに言い訳する人、自分の正当性ばかりを主張する人、などは他者からの評価を気にして「意思決定」している可能性もあります。自分で考える過程で他者にどう思われるか、という雑念が入って自分の考えに集中できなくなる傾向があります。あの人がこう言ったから、この人がこう言ったから、じゃあなたの意見は?と問われても確固たる基盤がありません。いわば「他律的」で、その場に合わせるという習慣に従ってしまう、苦しい状態です。

自分の本来の姿をありのままに認めること、臆病になっている自分、できないと否定的になっている自分も自分の一部として受け入れることが必要です。最大の敵は自分といわれる所以でしょう。多くの問題の解決策は自分の中にあります。その「こころの生活習慣」を変えていくことは至難であっても、自分で取り組むことができること、です。とはいえ、一人では気づきにくいので、できるだけたくさんの方と交流していくことをおすすめします。ゆとりをもって相手の言うことを聴くと、自分のいつものパターンに入り込まずに対応しやすくなります。主体性をもって行動する機会を増やしましょう。責任はついてくるけれど、ずいぶんと身軽になった自分を感じることでしょう。

「他律的」という重い衣を脱ぎ、春風の中を闊歩して行きましょう!

産業保健相談員 田中 朋子
(保健師、プラクティスド・コンサルティング・カウンセラー、メンタルヘルス対策促進員)

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