産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-4 有機粉じんによる肺疾患に注意-(3)

2019年05月


 有害性が低い粉状物質であっても、長期間にわたって多量に吸入すれば、肺障害の原因となり得ます。
 そこで今月は、粉じんを吸入しないようにする(ばく露を防止する)対策について説明します。
 基本的には、粉じん則に準じた対策が必要です。

1. ばく露防止対策の推進
粉じん則の適用がない場合には、事業者は次に掲げるばく露防止対策に取り組むこと。

(1) 作業環境中の粉状物質の濃度の測定等

粉状物質を取扱う作業場では、法令上の作業環境測定義務の対象外の物質であっても、化学物質管理の一環として、粉状物質の作業環境中の濃度を測定し、法第28条の2に基づくリスクアセスメントを行う。

また、作業方法や取扱設備、換気設備等に変更があった時や長期にわたり測定を行っていない時にも測定するよう努める。

空気中の粉状物質の濃度測定については、作業環境測定基準及び作業環境評価基準に準じて行うことが望ましいが、測定はリスクアセスメントの一環として行うものであり、パーティクルカウンター等の簡易測定法も利用可能である。

(2) 測定結果に基づく措置

粉状物質の取扱い作業における当面の作業環境の改善の目標としての濃度基準(目標濃度)は、吸入性粉じんで 2mg/m3とする。
なお、目標濃度は自主管理のための目安であり、作業環境評価基準に基づく管理濃度とは性質が異なるので留意する。
事業者は、目標濃度を超える測定濃度となった作業場については、速やかに(3)以降に示すばく露防止措置を講じ、目標濃度以下になるよう努める。

(3) 作業環境管理

ア 発散防止措置
労働者が粉状物質にばく露することを防止するため、(1)の測定結果を踏まえ、次に掲げる各措置の必要性を調査し、必要と判断される場合には当該措置を講ずるよう努める。

1). 粉じんの発散源を密閉又は隔離する設備の設置
例) 発散源となる設備・装置全体をカバーで覆う
発散源近傍での作業を無人化・機械化する
発散源の周りにビニールカーテンを設置する

2). 局所排気装置、プッシュプル型換気装置の設置
例) 作業方法に合わせ、局所排気装置を選定し、有効に稼働させる局所排気装置の吸引風速を点検・維持する
粉じんが飛散しないよう、開口面に接するホッパー、シューターの形状を変更する

3). 湿潤な状態に保つ設備の設置
例) 水、オイル、溶媒等を使用して、可能な限り湿式での作業方法
に変更する

4). 集じん・排気装置の管理
例) 集じん・排気装置のフィルターの目詰まりによる集じん性能の低下を防止するため、フィルターの定期的な交換を徹底する
集じん・排気装置のパッキンの取付け等の不具合による漏洩を 防止するため、使用開始前の取付け状態を確認する
ダンパーの開閉度合、換気風量と負圧を確認し、必要な風速が出ていることを確認する

(4) 作業管理

事業場において、粉状物質の取扱い作業を指揮する者に、以下の事項を実施させる。

(ア) 労働者が当該物質にばく露されないような作業位置、作業姿勢又は作業方法の選択

(イ) 作業手順書の作成と周知徹底

(ウ) 当該物質にばく露される時間の短縮

(エ) 保護具の使用の徹底
(呼吸用保護具の他、必要に応じて保護眼鏡を使用する)

(オ) 日常的な清掃作業の実施

(5) 呼吸用保護具の使用等

ア 作業環境中の粉状物質の濃度の測定の結果が目標濃度を超えている場合にあっては、粉状物質の取扱い作業に従事する労働者に、有効な呼吸用保護具(防じんマスク又は電動ファン付呼吸用保護具)を着用させる。
なお、これらについては型式検定に合格し標章の付されたものを使用する。

イ 呼吸用保護具の選定に当たっては、(1)の測定結果に基づき、各作業場の状況に応じた適切な指定防護係数の呼吸用保護具を選定する。

ウ 非定常作業及び緊急時における使用も考慮し、適切な呼吸用保護具を必要な数量備え、有効かつ清潔に保持する。

エ 防じんマスクを使用するに際しては、フィットチェッカー等を用いて面体と顔面の密着性の確認を行うことにより適切な面体を選ぶとともに、装着の都度、当該確認を行うことが有効である。

2. 健康管理
粉状物質の取扱い作業に従事する労働者について、一般健康診断のうち胸部X線検査の結果を確認し、じん肺に関する異常所見が認められる場合には、医師の意見を聴き、必要に応じて作業転換を行う等、健康管理を徹底する。

さらに、有所見者については医師の判断により精密検査を行い、異常の早期発見・早期治療につなげる必要がある。
なお、精密検査で、医師の判断によりCT検査(必要に応じHRCTによる検査)等を行うことが望ましい。

3. 労働衛生教育
粉状物質を取り扱う作業に従事する労働者に対し、当該物質の危険有害性情報の伝達と、吸入等による健康障害防止のためのばく露防止措置について、当該作業に従事させる際及びその後定期に労働衛生教育を行う。

参考資料 基安発1024第1号  H29.10.24
粉状物質の有害性情報の伝達による健康障害防止のための取組について

なお、本件については、4月15日 厚労省労働基準局課長通達
「特定の有機粉じんによる健康障害の防止対策の徹底について」
また、労災請求を受け、業務が原因かどうかを判断するために、疫学調査結果等を分析・検討し、これをまとめた報告書が4月19日に公表されていますので、次回に紹介します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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