2019年07月
架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物(以下ポリマー)の製造事業場で発生した肺障害は、「安衛研」の調査結果では、ポリマー粉体の取り扱い作業場で高濃度のポリマー粉体にばく露した可能性が明らかとなり、これによって発生したと推測されました。
その後、「肺障害の業務上外に関する検討会」が持たれ、疫学調査結果等を分析・検討し、「業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いものと考える」との報告がなされました。
この検討会の意見を基に、本件は「労災認定」となりました。
これらの結果を踏まえ、厚労省では、ポリマーの粉じんに高濃度でばく露することによる呼吸器疾患(肺疾患)の防止を図るため、予防的観点から、粉状のポリマーの製造、取扱いを行う事業場に対し、下記の措置を講ずるよう指導がなされました。
(通達 H31.4.15 基安労発0415第1号、基安化発0415第1号 他)
1 ばく露防止措置の徹底
粉状のポリマーを扱う事業場では、ポリマーの粉じんの発散防止抑制措置や労働者への呼吸用保護具の着用の徹底等、ばく露防止措置を講じること。詳細は、5月号を参照してください。
特に、粉状のポリマーを取り扱う従事者に、胸部レントゲン所見で上肺野優位の気腫性変化や線維化といった所見が認められた場合等、ばく露が疑われる場合は、局所排気装置の排気能力の増強等により発散防止措置を強化したり、呼吸用保護具を電動ファン付き呼吸用保護具等の防護係数の高いものへ変更する等により、速やかにばく露防止措置の改善を図ること。
使い捨て式-半面形、取替え式-半面形 | 3~ 10 |
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電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)-半面形 | 4~ 50 |
電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)-全面形 | 4~100 |
なお、発散防止の効果を把握するため、作業環境を測定する場合には、下記の測定方法を参考とすること。
空気中のポリマー粒子の推奨測定方法(概要)
作業者の襟元に個人サンプラー(レスピラブル粒子用)を取り付け、作業者が吸入する範囲の空気中のポリマー粒子を、高濃度ばく露が懸念される作業の実施時間についてのみ捕集し、作業でばく露する可能性のある環境中濃度を評価します(労働者の高濃度ばく露を予防するため)
2 健康管理の実施等
(1) 健康診断に関わる産業医、医師への情報提供
本件呼吸器疾患の特徴等(下記)、粉状のポリマーを取り扱う労働者の業務歴、取扱物質、作業内容等について、予め情報提供すること。
本件呼吸器疾患の特徴等
本件労働者らは、咳や呼吸困難を主訴に、あるいは自覚症状はないものの健康診断で異常所見を指摘されたこと等を契機に医療機関を受診し、臨床所見等から間質性肺炎、肺障害等の肺疾患と診断されている。
また、全員男性であり、いずれも若年で発症している。
胸部画像所見では、肺の収縮性変化並びに牽引性気管支拡張、肺野のすりガラス陰影並びに小粒状影、末梢気道閉塞によるエアートラッピングを思わせ胸膜直下の気腔拡大とブラ形成、ブラ破綻が原因と思われる気胸併発、葉間を含む胸膜肥厚、等の多様な所見が認められる。
当該所見は、これまで報告されている粉じんばく露に起因するじん肺症とは異なる画像分布を示しており、多彩な病態を呈するものであるが、各症例とも亜急性の経過を辿っており、かつ、気道周囲の病変が主体である。
(2) 胸部レントゲン所見で上肺野優位の気腫性変化や線維化といった所見が認められた者については、呼吸器専門医の診断を仰ぐこと。
この際、専門医にも、本件呼吸器疾患の特徴等について情報提供を行うこと。
(3) 粉状のポリマーを取り扱う労働者については、一般健康診断時に医師の判断で胸部X 線検査が省略できる場合でも、省略しないようにすること。
3 呼吸器疾患の発生状況の把握と報告
労働者や退職者に、上記2(1)と類似する所見が見られた場合は、所轄の労働局又は労働基準監督署に報告すること。
臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)
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