産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-8 その化学物質、大丈夫? こんな災害が起こっています

2019年09月


1. リスクアセスメントが未実施であった

(1) H29/05 休業14 日
1-ブロモプロパンを含む溶剤で治具や製品の洗浄作業をしていたところ、体調不良を訴え、急性薬物中毒と診断された。
少量生産部門であったため、防毒マスクの着用や局所排気装置の設置、リスクアセスメントが実施されていなかった。

(2) H29/08 休業10 日
飼料の燻蒸作業を行っていたところ、発生したリン化水素によって気分が悪くなった。
リスクアセスメントが実施されていなかった。また、作業員は防毒マスクを着用しておらず、換気も不十分であった。

(3) H30/8 休業1日
住宅新築工事現場において、床断熱材の隙間を埋めるため、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、メチレンビス(4,1-フェニレン)=ジイソシアネートを含有する断熱材をスプレーにて吹き付ける作業を行っていたところ、中毒を起こした。
リスクアセスメントが実施されていなかった。また、ばく露防止対策として、特段のことはなされていかかった。

2. リスクアセスメント後の措置が不十分であった

(1) H29/11 休業1日
鋳物製造工程において、中子を作る際に中子から木型が剥がれやすくするため、ノルマルヘプタンを主成分とする薬剤を木型の内部に入って塗布する作業を行っていたところ、急性中毒で意識消失となった。
本作業について、リスクアセスメントは実施していたが、有機溶剤中毒予防規則等の特別規則の対象外であるとして、特段のばく露防止対策を実施していなかった。

3. 容器に表示がなかった

(1) H29/07 休業1日
含有物の表示のない容器(硝酸、有機カルボン酸等を含有する洗剤が入っていた)に、洗剤を追加していたところ、塩素ガスが発生し中毒となった。
追加した洗剤には、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を含有していた。

(2) H29/11 休業12日
清掃に使用する洗剤を持ち運ぶため、小分けの容器に移し替える作業を行っていた。
表示のない小分けの容器(次亜塩素酸ナトリウムが入っていた)に、酸性の洗剤を移し入れたため、塩素ガスが発生し、作業を行っていた労働者が急性呼吸不全となった。

(筆者注釈)
上記2例は、次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害です。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質と混合すると、黄緑色の有毒な塩素ガスが発生します。
次亜塩素酸塩溶液は消毒や漂白等に、酸性溶液は洗浄や水処理等に用いられますので、身近なところに両者が存在しますで、混触による塩素中毒が後を絶ちません。
混触の危険性の教育と容器表示(ラベル)が必須です。

4. 注文者から請負人への情報提供等が不十分であった

(1) H29/01 休業なし
GHS分類では、自己発熱性の危険性があるが、SDS交付等の規制のない硫化鉄を含むスラッジが堆積したタンクの清掃を請負い、作業を行っていたが、清掃中に硫化鉄が空気に触れ酸化、発熱・発火した。
注文者と請負業者の作業要領には、スラッジを湿潤に保つとの記載はあったが、請負業者は硫化鉄の危険性、湿潤化の目的等を認識していなかった。

 以上は、9月2日に開催取れた「第1回・職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討」での配布資料として公開されたものです。
 また同資料には、平成29年の労働者死傷病報告のうち、事故の型が「有害物等との接触」であるもので、その起因物が「化学物質であるもの」を集計したデータが示されています。

 それによると、災害原因となった化学物質が、法令の義務対象物質であったのか、なかったのかの区分もわかります。
 義務対象物質か対象外なのかの割合は、次のとおりです。

1. 特別規則対象物質 (注1) 20.5 %
2. 特別規則以外のSDS交付等の義務対象物質 24.5 %
3. SDS交付等の義務対象外物質 25.3 %
4. 物質名が特定できていないもの 29.7 %

(注1) 内訳→特化 16.8 % 有機 3.4 % 鉛 0.3 % 四鉛 0.0 %

 現在の法令では、673の化学物質は、「容器表示」、「SDS交付」、「リスクアセスメント」の実施が義務となっていますが、上記のデータは、災害の1/3以上が義務対象外の化学物質で起こっていることを示しています。
 しかし、義務対象外の化学物質といえども、安衛法・第28条の2、安衛則・第24条の14、第24条の15で、努力義務となっています。
 努力義務だからと安易な取り扱いをすると、災害に結び付くということです。

 今一度、職場で取り扱っている化学物質について、容器にラベルがあるか、SDSに沿った処置がなされているか、リスクアセスメントの結果に応じたリスク低減措置が実施されているか等、基本的な事項からチェックし直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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