産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

チコちゃんは知っている、加熱式タバコが有害なことを

2019年11月


 一般に新型タバコと言われているものには、「加熱式タバコ」と「電子タバコ」があります。
今回は、日本で急速に増えている加熱式タバコについて、今までに報告されている資料を基に説明します。

 加熱式タバコは日本では、次の3種類の商品名で販売されています。

アイコス IQOS (PMI) プルームテック Ploom TECH (JT) グロー glo (BAT)

 紙巻きタバコは燃焼させますが、加熱式タバコはタバコ葉を加熱して(温度はメーカーで異なる)、発生したニコチンを含むエアロゾルを吸う構造になっています。
 葉タバコを使用するため「たばこ事業法」の規制対象品で、タバコとして販売されており、包装にも「本製品は、たばこ製品です」と明記されています。
 さらに、加熱式たばこの包装の警告表示は、来年の4月からは、「健康への悪影響が否定できません」との文言が入る予定になっています。

 日本で販売されている加熱式タバコ3製品のパンフレットには、「健康懸念物質を99%オフ」、「国際公衆衛生機関が優先する9つの有害性成分の量の低減率が約90%」、「有害性物質約90%オフ」等と書かれています。
 いずれもが、「紙巻きタバコよりも有害成分量が減っている」ことを積極的にPRしています。
 皆さんは、これを見て、加熱式たばこによる「健康障害」についてどう思いますか。
 多くの人たちは、加熱式タバコは、「紙巻タバコよりも病気になり難い」といった認識を持ってしまいます。
 もう一度よく読んでください。「有害性物質が減っている」とは書かれていますが、「病気になるリスクが減る」とは一言も書かれていません。
 非常に上手に書かれています。

 タバコ煙では、「有害物質の低減率」 = 「健康リスクの低減率」ではありません。これについては、米公衆衛生局長官の報告書(2010年)で、次のように発表されています。
 タバコの煙には、「吸っても安全なレベルはない」ということが立証されたと述べた上で、受動喫煙を含む低レベルの暴露でも、急速かつ著しく血管内の機能障害、炎症は増加し、心臓発作や脳卒中に関わると警告しています。
 1日の喫煙本数が2~3本とか、たまにしか吸わない、あるいは受動喫煙といった低レベルの暴露でさえ、心血管事故のリスクを大幅に増加させるに十分だとの証拠が挙げられています。
 さらに、「タバコ煙に対する健康リスクの増加は直線的ではない」という見解も示されています。
 このことは日本禁煙学会においても、わかりやすく次のように説明されています。
 加熱式タバコの有害物量は減っていると宣伝しているが、1日わずか3本の喫煙でも、1日20 本以上の喫煙に近い心臓病リスクがもたらされるのだから、有害物質量が10分の1に減っても、病気の危険がそれに応じて減ることは期待できない。

 世界保健機関(WHO)を始め、日本の学会等も繰り返し警鐘を鳴らしているように、受動喫煙に「安全なレベルというものはない」ということです。
 特に、高齢者、子供、病人にとっては、少しの受動喫煙でも大きなダメージを受けます。加熱たばこも受動喫煙のリスクがあります。

 タバコメーカーは、以上のことや訴訟リスクを避けるためか?、包装の警告表示の注釈(続き)には、「健康障害のリスク」について、次のように記載されています。
 「有害性成分の量を約90%低減の表現は、本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」、「健康に及ぼす悪影響が小さいことを意味するものではありません」「本製品にリスクがないと言うわけではありません」、「タバコ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は紙巻タバコも本製品も両方やめることです」と書かれています。
 このようにタバコメーカーも、加熱式タバコには健康障害のリスクがあることを認めた記載となっています。

米国で「紙巻タバコよりも害が少ないタバコ」とは認められなかった。

 現在、日本で一番売れている加熱たばこは、アイコス( IQOS フィリップモリス社)で、国内シェアの70%程度を占めています。
 2016年にアイコスは世界の10ヶ国以上で販売されていましたが、その時の世界シェアの96%が日本でした。
 しかし、フィリップモリス社の本拠地のアメリカでは、販売されていませんでした。
 その理由は、当初、フィリップモリス社からアイコスを「紙巻タバコよりも害が少ないタバコ」としての販売申請がなされました。
 そして紙巻タバコと比べてアイコスの害が少ないことを証明するために多くの実験資料等が提出されました。
 それを米国食品医薬品局(FDA)の専門家が詳細に検討しました。
 その結果、「紙巻タバコよりもアイコスの方が、健康影響が少ないとは言えない」との判断が下され、「紙巻タバコよりも害が少ないタバコ」としては認められませんでした。公衆衛生の原則に則り、予防的観点からの判断です。
 申請資料等では安全が確認できないので「NO」ということです。
 本年5月から、アメリカでもアイコスの販売が開始されるという報道がありましたが、これは「通常のタバコ」としての販売が承認されたからです。
 この販売承認に当たっても、次のような条件が付けられています。
 ・紙巻きタバコよりも有害性が軽いと宣伝しないこと。
 ・使用者には、リスクが軽いわけではないと説明すること。

 人の健康に係わることですから、科学的エビデンスに基づいて、安全確認ができて初めて「OK」を出すという慎重な判断に基づいています。
 前回に説明した「安全確認型システム」と同じ考え方です。

 加熱式たばこについて、次のような認識をしている方はいませんか。
 「紙タバコほど体に害がない」、「受動喫煙に配慮できる、受動喫煙のリスクがない」、「加熱式タバコを吸うことは喫煙ではない」
 このような認識の方、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られますよ。

 来月は、もう少し具体的に、現在までに分かっている内容を紹介します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る