産業保健コラム

石戸谷 武 相談員

    • 産業医学
    • 前 聖カタリナ大学教授
      ■専門内容:心臓外科・循環器科・産業医学
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働き方改革法施行から8か月

2019年12月


 働き方改革法は2018年6月29日国会で可決され、2019年4月施行されました。今回はこの働き方改革法について考えてみます。
 「日本の国は先進諸外国に比べて、生産性が低い」と言われております。確かに現在の時間当たりの労働生産性(日本生産性本部資料)は増加してきておりますが、米国・ドイツの10年前の数値です。
 ここで生産性について解説しておきますと、この労働生産性というのは「1人当たり、1時間当たりの労働による生産量・生産額で表されます。米国・ドイツが69ドルに対して、日本は46ドルですから前述した「生産性が低い」ことになります。
 これを式で書きますと  生産性=生産額÷(労働者数×労働時間)となります。労働者数が決まっているとすると、労働時間が長ければ生産性の数値は小さくなります(即ち低くなる)。

 2015年の発表で、日本の全産業の年間総実労働時間は1734時間で、この年のドイツ・フランスのそれは両国とも約1400時間で、300時間も長い労働時間になっております、しかもこの時の時間外労働時間数は平均で132時間(多い業界では367時間にもなっている)を示しています。
 この長い実労働時間の他に、労働災害として、労働によって起こったと認定された疾患に脳血管障害や心臓疾患があります。しかもこの脳血管疾患や心臓疾患が時間外労働を80~120時間もしている人に集中して起こっていることです。
 大切なことは、労働することによって、死亡したり・疾病が悪化することがあってはならないということです。WHO(世界保健機構)でも作業関連疾患として、循環器疾患、脳血管疾患、ストレス関連疾患、突然死(過労死)などを挙げ、注意を喚起しております。

 以上のことはかなり以前から統計的に観察されて来まして、これを防ぐために今回の働き方改革法が国会に提案・可決されました。この法律を一口で言うと「時間外労働の上限規制が出来た」ということです。
 これまでとの相違点を挙げると
 (1) 法定労働時間(1日8時間、週40時間)は変わらず。
 (2) 大臣告示による上限規制(原則月45時間、年間360時間)36協定で特別条項を設ける場合、年に6月までは協定時間の上限なし → 法律による上限規制(原則月45時間、年間360時間)で36条協定で特別条項を設ける場合でも年間720時間、時間外と休日労働の合計が100時間かつ2~6月平均で月80時間以内。月45時間を超えるのは年間6月まで。

 この様に法律が出来て2019年4月施行となりましたが、すべての業界が直ちに法律どおり出来る状態ではありません。そこで次の業界・業務には5年間の猶予期間が設けられました。
 即ち、(1)自動車運転の業務 (2)建設事業業界 (3)医師 (4)鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業界 (5)新技術・新商品の研究開発業務 であり、(1)から(4)までは5年間の猶予、(5)は上限規制なし。ということになりました。
 以上の様な各業界業種・業務はそれぞれのマイナスの点を抱えておりますが、例えば(1)のトラック業界では以前から商取引上の待ち時間にかなりの時間を必要としているし、(2)建設業界では東京オリンピック関連工事の影響と加えて大雨洪水などの復興工事が遅れていることがあり、(3)病院では通常の手術定例時間の他に緊急手術が入り時間外勤務を強いられ、その他救急部署も務めねばならず、さらに医師数には都会と地方のアンバランスがあり、それぞれに解決されねばならぬ問題を抱えておるのが現況です。各業界・業務では2024年に向け努力を重ねておるところです。

産業保健相談員 石戸谷 武(産業医学)

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