産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-12 (加熱式タバコ) 心配性でしょうか? 転ばぬ先の杖

2020年01月


 加熱式タバコについて、次々と心配なデータが出てきて、懸念や危惧が増えています。
今まで説明してきたこと以外で、わかってきたこと、懸念、危惧されること(課題)を4つ紹介します。 

1. 禁煙への手段(ステップ)にならない。
2. 健康影響が少ない代替品とはならない(ハームリダクション)
3. 紙巻きタバコとの二重使用(デュアルユース)による健康障害
4. 喫煙の「きっかけ」を与え(ゲートウェイ)、ニコチン依存者の増加懸念

1. 禁煙手段としての評価 →禁煙への手段(ステップ)にならず、むしろ禁煙の妨げとなる可能性があります。
禁煙(紙巻タバコの喫煙をやめる)手段として、加熱式タバコを使用することが有効かどうかの調査結果が出ています。
それによると、加熱式タバコ使用者の禁煙成功率は、非使用者の成功率を有意に下回っており、加熱式タバコの使用は、むしろ禁煙の妨げとなっていたとのことです。

この理由として、加熱式タバコは紙巻タバコよりも、ニコチンの血中濃度が上昇する可能性が指摘されています。
(加熱式タバコはニコチンの吸収率を高める工夫とか、肺の奥まで深く吸い込んでしまう等? いずれにしろ、ラットによる実験で、ニコチン血中濃度が、紙巻タバコと比べ4倍も高かったとの報告があります)

ニコチンの血中濃度が高くなることで、ニコチン依存が強まり、依存症からの回復を阻害し、禁煙の機会を失い、禁煙できなくなる可能性があります。
直ぐに禁煙は難しいと考え、禁煙へのステップとして、まず加熱式タバコに手を出した結果、紙巻タバコもやめられず併用となる二重使用(デュアルユース)となる人が続出しているとの報告もあります。

このような実態から、加熱式タバコ経由での禁煙は難しいと考えます。
禁煙したいなら、加熱式タバコ等には手を出さず、禁煙外来を受診し、ニコチンを含まないタイプの禁煙補助薬(脳のニコチン受容体に作用する)を処方してもらうのが有効です。

現在は、公的医療保険を適用したニコチン依存症の治療は、紙巻タバコのみが対象ですが、厚労省は加熱式たばこ使用者にも保険適用の禁煙治療が受けられるよう検討を始めています (2020年度の診療報酬改定)。

2. 紙巻タバコの健康リスクを少なくする代用・代替品(ハームリダクション)としての評価は、科学的研究の質・量が不十分ですが、これまでの客観的・科学的な知見からは、ハームリダクションとはなり得ません。
(ハームリダクションとは、リスクを完全にはなくすることができないが、健康影響が少ない代用・代替品を用いて、リスクを低減すること)

加熱式タバコが、紙巻タバコのハームリダクションとなるためには、「加熱式タバコは紙巻タバコよりも害が少ない」という大前提が必要ですが、このことは証明されてはいません。
これは、前々回にも説明しましたように、タバコ煙の有害物量と健康リスクとは直線的な関係ではなく、1日3本の喫煙でも、1日20 本以上の喫煙に近い心臓病リスクがあるように、タバコの有害物質量が10分の1に減っても、病気のリスクがそれに応じて減ることは期待できないからです。

加熱式タバコのIQOS は、米国FDA に、リスクが軽減されたタバコ製品として承認申請をしましたが、諮問委員会では,有害化学物質の発生量低減は認められたが、リスクが低減されたタバコ製品としては、認められませんででした。

また、加熱式タバコに変えても、依存性物質であるニコチンを満足するまで摂取し続けるので、ハームリダクションとはなり得ません。

3. 紙巻タバコとの二重使用(デュアルユース)による健康障害(本人、受動喫煙)

上記で、禁煙へのステップとして、加熱式タバコに手を出した結果、紙巻タバコもやめられず併用となる二重使用(デュアルユース)のケースが多々あるという報告を紹介しました。
このことに関しては、加熱式タバコ使用者の72%が、紙巻タバコも使用しているとの調査結果があります。

二重使用(デュアルユース)は、葉巻タバコの喫煙本数は減少するが、全体としてのニコチン摂取量と依存度は、むしろ増えたとの報告があります。

二重使用(デュアルユース)は、「ニコチン依存症が進行する危険性も否定できない」、「アレルギー性疾患のリスクを高める」、「喘息との強い関連が示唆された」等、健康障害を強めるとの報告もあります。

また、加熱式タバコに変えた者の1/4が、自宅の喫煙場所を屋外から屋内に移す等のことを行っています。
加熱式タバコでは、受動喫煙は無いと思っているからでしょうか。 
もしそうなら、ご家庭に限らず公共の場でも加熱タバコを使用することになり、受動喫煙が心配されます。

4. ニコチン依存症者が増えるのではないかとの危惧があります。
喫煙の「きっかけ」を与える(ゲートウェイになる)ことが指摘されています。
加熱式タバコは、非喫煙者に喫煙の「きっかけ」を与える(誘導する)、また禁煙者に再喫煙を促すことになるとの指摘があります。

加熱式タバコの広告のメッセージやタバコらしくない外観や使用感から、加熱式タバコには殆んど害がないと誤解して使用している人達もいます。
また、紙巻きタバコよりは安全であると思って、使用し始めた人達もいます。
このような新たなニコチン依存症者をつくらないように、加熱式タバコに対する正しい知識を持ってもらうことが必要です。

 来月は、紹介が延び延びになっていた、加熱式タバコについて、世界保健機関(WHO)をはじめ、国内の多くの学会等からも「健康に悪影響を与える」との警告がなされていること等をご紹介します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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