産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもやま話-14 喫煙と呼吸器感染症

2020年03月


 今月は、「電子タバコ」について、今までに報告されている資料を基に説明し、その後に喫煙と呼吸器感染症について考えてみます。

Ⅰ.電子タバコ

電子タバコは,吸引器に入れた溶液(充填液、リキッド)を、加熱器(コイル)で熱し、エアロゾル化させ、蒸気と称される液滴の霧状ミスト(vapor)を発生させて、それを吸入するものです。

充填液には、基剤(グリセリン、プロピレングリコール)に、ニコチン、人工香料、等が入っています。
充填液は、好みに応じて選択できる他、バッテリー電圧が可変でエアロゾル発生量や味を調整できるようにしたものがあります。

種類は、ニコチン含有の有無で、2種類あります。
WHOでは、充填液にニコチンを含有するものを「ENDS」、ニコチンを含まないものを「ENNDS」と、略表記することになっています。
日本では、ニコチン含有電子たばこ「ENDS」は、「医薬品医療機器等法」で規制され販売が許可されていません。
ニコチンを含まない電子たばこ「ENNDS」は、「たばこ事業法」のタバコには該当せず、販売規制はなく、未成年者でも購入できる状況となっています。

ニコチン含有電子たばこは、国内では販売が許可されていませんが、以下の注意が必要です。
(1). 個人輸入サイト等で取り扱われていること。
(2). ニコチン含有製品が違法に売買されていること
(3). 大麻や覚醒剤といった違法薬物まで混入された製品が闇で流通していること等
このように、電子タバコ共通のリスクとして、充填液に何が入っているのかが分からないということがあります。

今回は、ニコチンを含まない電子たばこ「ENNDS」の有害性について考えてみます。
ニコチンを含まない電子たばこから発生するエアロゾルは、単なる「水蒸気」ではありません。
健康への悪影響の可能性としては、「エアロゾル中」に、ホルムアルデヒド(発がん性分類Group1)、アセトアルデヒド(Group2B)、アクロレイン(刺激性) 等の発生するものがあることが報告されています。
これらの物質は、充填液には含まれていないので、加熱による熱分解生成物と考えられています。
これらにばく露することで、健康への悪影響が危惧されますが、まだ十分な臨床データが揃っていません。警戒と研究の継続が必要です。

最近、健康への悪影響として発表された論文の概要が、3件出ていました。
そのポイントを紹介します。

(論文-1)
実験では、電子タバコ(ニコチン入りとニコチン無し)の煙を吸わせた「マウス」を使って行った結果、電子タバコは、ニコチンの有無に関わらず、「マウス」の肺の免疫機能に害を与えることがわかりました。
しかし、免疫機能に害を与える原因物質の特定はできていませんし、これは「マウス」での結果であり、「人」に対してはわかっていません。

(1). 電子タバコの煙を吸わせたマウスの肺の組織を顕微鏡で観察すると、マクロファージという免疫細胞が、過剰に肥大していました。
このような状態の肺は、感染症になりやすくなっています。つまり、電子タバコは、「マウス」の肺の免疫細胞を変異させ、感染症にかかりやすくさせていました。

(2). 電子タバコの煙を吸わせた「マウス」に、致死率の高いインフルエンザウイルスを投与した結果、ニコチンの有無に関わらず、電子タバコを吸ったマウスは、明らかに致死率が上昇しました。
研究者たちは、これは免疫反応が弱体化したためと考えました。

(論文-2)
英国の大学教授の実験研究で、学術誌に掲載された内容によると、実験室内で電子タバコの吸引プロセスを再現し、「8人の非喫煙者から提供された肺細胞」のサンプルを使って行われました。
その結果、電子タバコの蒸気が炎症を引き起こし、肺胞マクロファージを機能不全にしていたことが分かりました。(肺胞マクロファージは、肺胞内に入ってきた微粒子、細菌、アレルギー物質等を取り除く)

(論文-3)
ニコチンが入っていない電子たばこでも、体に悪影響を及ぼすという米大学の研究結果があります。
31人の非喫煙者にニコチンなしの電子タバコを吸ってもらい、吸う前と後のMRI画像を比較したところ、たった1回の電子タバコの使用で、吸った後は血流が悪くなり、動脈の内皮機能(血管の一番内側の細胞の機能)に悪影響を与えていたことがわかったということです。
(血管の内皮機能がダメージを受けると、やがて心臓発作や脳卒中につながっていく可能性もあります)
この研究を行った教授によれば、ニコチンが入っていない電子タバコでも、蒸気にする過程(加熱)でプロピレングリコールやグリセロールが、有害物質に変化するためとのことです。

まだ臨床データ等が少なく、今後、研究が進んで、新しい知見が出てくると思います。
海外では、ニコチン入り電子たばこ「ENDS」が主流ですが、既に健康問題が起こり、禁止や厳しい制限が行われています。

米国では、食品医薬品局(FDA)は1月2日、果物やお菓子、ミント等の風味をつけた「フレーバー付き」電子タバコ製品に関する規制の枠組みを発表し、30日以内に販売を中止するよう求め、その後はFDAが承認した製品のみ販売を認めるという内容です。この背景は以下の通りです。

これらの製品は未成年の使用率が高く、「ニコチン依存」のまん延を招くとして、規制を求める声が高まっていました。
米疾病対策センター(CDC)の調査によると、米国で電子たばこを吸っている中高生は2019年に500万人超で、その多くがフレーバー付き製品。

また、2019年9月以降、米国で電子たばこ製品使用による深刻な「急性肺疾患」の報告が急増し、これまでに2500人が入院、50人が死亡。
CDCは昨年12月、急性肺疾患の原因物質を、電子たばこのリキッドに使われていた「ビタミンEアセテート」と特定しました。

既に、米国のいくつかの州や市が、電子タバコを禁止しています。
国別では、インド、ブラジル、シンガポール、タイ等で禁止されています。

Ⅱ.喫煙と呼吸器感染症

1. 喫煙者は、インフルエンザの発症リスクが5倍以上との発表がありました。
喫煙者は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の「慢性」呼吸器疾患や、肺炎等の「急性」呼吸器感染症を発症しやすいことが知られていましたが、インフルエンザにかかるリスクが約5.7倍にもなることが、英国で行われた研究(系統的レビューとメタ分析)で明らかになったとの内容です(1/27)。
喫煙によって傷ついた肺は、前記のように免疫力が低下し、バクテリアやウイルス等に感染しやすく、また治りにくくなるようです。

2. WHOの緊急対応責任者マイク・ライアン氏は「タバコがあらゆる呼吸器感染症の悪化要因であることは言うまでもない。
今回(新型コロナウィルス)も例外ではないだろう」と述べた上で、男性で喫煙率が高いために重症化するケースが多くなっている可能性について、「まだ証明されてはいないが、大きな関心がある」(2/14会見)とし、その可能性は否定しなかったと報道されています。
免疫力は、一般に男性の方が脆弱といわれており、その原因は、生物学的もの(ホルモン等)からライフスタイルに関するものまで多くの要因が考えられ、因果関係を立証することは容易ではないと思われます。
従って、今までにも述べてきたように、「疑わしきは、とりあえず規制」という考え方での対応が必要ではないでしょうか。

一般に、喫煙が呼吸器疾患をはじめ、心筋梗塞、脳卒中、がん等、さまざまな病気のリスクを上げるのは言うまでもありません(H28年・タバコ白書)。
上記のように感染症にも罹り易くなります。
それだけではなく、喫煙という「行為」は、感染症予防の見地からは、ハイリスクな行為となります。
タバコを口にくわえるという行為は、細菌やウイルスが付着したタバコを口に運ぶことになり、感染のリスクを高めます。
(有害化学物質取り扱い作業場での喫煙禁止と同理由)
また、喫煙室(狭い部屋)での喫煙は、マスクを外した状態での「濃厚接触」となります。
風邪、インフルエンザ、肺炎、その他の感染症を予防するためにも、喫煙者は、これを機会に「禁煙」にトライしてみてはいかがでしょうか。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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