産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもやま話-16 化学的消毒(消毒剤)による新型コロナウイルスの「不活化」

2020年05月


消毒剤は治療薬ではない

最近、米国で「消毒剤」を「治療薬」に使えないかで、次のような報道がありました。
トランプ大統領が、新型コロナウイルスの治療に、「消毒薬」の投与が有効か研究するようにと提案し、物議を醸している。
医療関係者からは「無責任」で「危険な行為」等との非難が、公衆衛生当局からは、消毒剤(塩素系漂白剤等)は危険な物質で、「薬」の代わりにはならず、絶対に摂取しないようにとの警告が出された。
このトランプ発言後に、消毒剤の誤用に関連した通報が急増しているとのこと。

このような誤用は、皆さんの職場ではないと思いますが、消毒剤によるコロナウイルスの「不活化」について、今までに発表されている資料を基に整理しましたので紹介します。

敵は「ウイルス」

孫子の兵法に、「彼(敵)を知り、己を知れば、百戦殆(危う)からず」と言うのがあります。敵に勝つためには、敵をよく知ることが非常に重要ということです。
今、私達が闘っているのは、新型コロナ「ウイルス」です。「細菌」ではありません。
ウイルスと細菌では、次のような違いがあり、この違いが対策をとる上でも大きく違ってきます。
「細菌」は、数μの大きさ(結核菌は長さ2-10μ) の単細胞生物で、自力で栄養を摂取し、エネルギーを生産し、細胞分裂を繰り返すことで生存・増殖を行っています。
これに対してウイルスは、大きさでは細菌の1/10以下と、非常に小さくて、細胞を持っていません。このために、栄養摂取やエネルギー生産はできず、自力で動くことも、増殖することもできません。
どうしているかと言えば、他の生物の細胞に入り込んで(感染)、その細胞内で増殖して、生きているのです。
健康な皮膚には入り込めず、表面に付着しているだけですが、粘膜等の細胞から入り込んでくると言われています。
細胞内に入り込んだウイルスは、その細胞を支配し、強制的にウイルスを複製させ、やがて細胞の外へウイルスを放出します。放出されたウイルスは、他の細胞に感染します(入り込む)。このようにして、ウイルスは増殖していきます。

新型コロナウイルスと戦う武器

1. ワクチン → 予防接種で免疫を獲得し感染予防

2. 治療薬 → ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と重症化に伴う合併症改善薬上記1.2は、世界中の研究者が開発に取り組んでおり、早期の実用化が期待されます。

3. 環境中のウイルスの不活化(消毒) → 人体への侵入がなくなるウイルスは「細菌」ではないので、「殺菌」という表現は適切ではなく、「不活化」(構造破壊で死滅、感染性を失わせる)が使われますが、一般的には「消毒」がよく使われています。
不活化には、加熱(煮沸)、日光、紫外線、焼却等による方法以外に、化学的消毒法(次亜塩素酸ナトリウム、アルコール等の消毒剤)があります。

ウイルスの種類と有効な消毒剤 → 新型コロナはエンベロープを持つウイルスウイルスは、エンベロープ(脂質の二重膜)のあるものと、ないもの(ノンエンベロープ)に分けられます。

・エンベロープを持つウイルス(新型コロナ、インフルエンザ、ヘルペス、エイズ等)の消毒エンベロープは脂質なので、アルコールや界面活性剤(石けん)等で処理すると破壊し、不活化できます。

・ノンエンベロープウイルス(ノロ、ロタ、ポリオ、アデノ等)は、アルコール等に強いため、消毒には次亜塩素酸ソーダ等を用います。

ご家庭で出来る消毒

(1)石鹸での手洗い+アルコール消毒で接触感染を防ぎましょう
手洗いは、たとえ流水だけであったとしても、皮膚に付着したウイルスを流すことができるため有効ですし、石けん(界面活性剤)を使った手洗いは、ウイルスの膜(エンベロープ)を壊すので、不活化には更に有効です。
手に約100 万個付着したウイルスが、石けんやハンドソープで10 秒もみ洗い後、流水で15秒すすぐと、数10個に減り、2回繰り返すと数個になるというデータがあります(2006年・感染症学雑誌)
また、流水と石けんでの手洗いができない時は、消毒用アルコール(濃度70%)も同様にウイルスの膜(エンベロープ)を壊すので有効です。

(2)手で触れる共有部分を家庭用塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒しましょう。
物に付着したウイルスはしばらく生存します。
新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 2020.05.01改訂 国立感染症研究所他によると、現時点で判明しているウイルスの残存期間は、エアロゾルで3時間まで、プラスチックやステンレスの表面で72時間まで。
ドアの取手、ノブ、手すり等、身の回りの共有の物の接触面は、薄めた市販の家庭用塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で拭いた後、水拭きしましょう。
このような所は、一般にアルコールよりも有効性が高いとされています。

家庭用塩素系漂白剤は、主成分が次亜塩素酸ナトリウムであることを確認し、濃度が0.05%になるように調整してください。
トイレや洗面所は、通常の家庭用洗剤ですすぎ、家庭用消毒剤でこまめに消毒しましょう。

消毒剤使用上の注意

(1)消毒用アルコールを使用する場合

・エタノールが最も消毒効果を発揮するのはアルコール濃度が70-80%であり、消毒用はこの濃度になるよう調整されています。
日本薬局方     76.9-81.4 %
米国薬局方     68.5-71.5 %
WHOガイドライン 60-80 %
北里大学の研究グループは、試験管内でのウイルス不活化評価で、エタノール50%以上で1分間で新型コロナウィルス不活化が可能と発表(2020.04.17)

厚労省・事務連絡 令和2年4月10日改定版では、手指消毒用エタノールの供給が不足していることから、医療機関等において、やむを得ない場合に限り、代替品として高濃度エタノール製品(エタノール濃度70-83%)を用いることは差し支えない。

・手や身の回りの物が、水で濡れた状態のままでアルコール消毒すると、水でアルコール濃度が薄まってしまい、消毒効果が落ちてしまいますので、しっかり乾いた状態で使用しましょう。

・引火しやすい液体のため、火気の近くでは使用しないでください。
東京消防庁は、消毒用アルコールは、濃度が60%以上(重量%)の製品は危険物に該当(ラベル表示)し、火災を引き起こす可能性があるとして注意を喚起しています(2020.04.17・告知)

・密閉した室内で大量に噴霧しないようにしましょう。
霧状になると、引火する危険性が増します。

・室内で容器などに詰め替えるときは、しっかり換気をしましょう。

・直射日光が当たる場所や高温となる場所は避けましょう。

(2)家庭用塩素系漂白剤を用いた消毒液を使用する場合
消毒液は、製品記載の濃度を確認し、薄めて使用して下さい。
ドアノブ・手すり等の手で触れる部分      0.05 %
感染者や濃厚接触者が使用したトイレ・洗面所等   0.1 %
新型コロナウイルス対策 「身のまわりを清潔にしましょう」(厚労省・2020.03.31 事務連絡)(PDF)に、薄め方の具体例がありますので参考にしてください。

・皮膚への刺激が強いため、直接触れないよう、必ずビニールなどの手袋を使用して下さい。

・手指消毒には使用しないでください。

・消毒液の噴霧(スプレー)は不完全な消毒やウイルスの舞い上がりの可能性があるため避けてください。

・加湿器に入れて空間を消毒しようとしたり、マスクに噴霧して使用する等は、絶対にしないでください。
日本中毒情報センターによると、塩素系漂白剤を飲み込んだ場合は、口中、喉から胃のあたりまでただれて痛くなり、物を飲み込めなくなる恐れがあります。吐き気や嘔吐も起こします。
原液や濃厚なものが眼に入ると、ひどい場合は失明する危険もあります。

日常使っているものでも、使い方を間違えると身体に重篤な影響を及ぼすことがあります。

・金属は腐食する可能性があるため拭き取った後10分後に水拭きを行ってください。

・消毒するときは、換気を十分に行ってください。

・酸性の強い洗剤と混ぜないでください。有毒なガス(塩素)が発生します。

・消毒液は時間の経過とともに消毒効果が落ちます。必要な量だけ作り、その都度使い切りましょう。

その他の消毒剤

・市販の洗剤等、エタノールや界面活性剤成分を含み、消毒効果が期待できる製品を新型コロナウイルスを用いて、試験管内で試したところ、かなりの洗剤類ハンドソープ類に効果があり、きちんと使い方などを守って使えば、ほとんどの製品でウイルスの不活化ができたと発表(前記北里大学研究所 2020.04.17)

・製品評価技術基盤機構(NITE)が、高濃度アルコールを代替する新型コロナウイルスの消毒方法の検証を始めており、5月中旬までに評価を終える計画。結果は随時速やかに発信されます。
評価対象は、新型コロナウイルスへの有効性が確認されているアルコールと次亜塩素酸ナトリウムを除き、文献調査で効果が期待できる界面活性剤、次亜塩素酸水、第4級アンモニウム塩から12成分を選定。
最初は、新型コロナウィルスに代替できるA型インフルエンザウイルスを使って検証するが、準備が整い次第、新型コロナウィルスでの確認も行う予定。

以上、消毒剤による新型コロナウイルスの不活化を、現時点で判明している内容を基に紹介してきましたが、他のウイルス(例えばインフルエンザ)対策にも共通しているところが多くあります。職場の感染症対策を今一度見直してみましょう。

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