産業保健コラム

スタッフ

AYA世代・治療と仕事の両立について

2020年06月


このたび4月1日付で愛媛産業保健総合支援センター 産業保健専門職として治療と仕事の両立支援を担当しております福田です。どうぞよろしくお願い致します。
私は以前、看護師として県内の病院に勤務しておりました。血液腫瘍内科、主に白血病や悪性リンパ腫など血液の癌の患者さんが多く入院していた病棟でした。

近年、競泳の池江璃花子選手(18)の白血病公表を機に、若い世代のがんに注目が集まっています。彼女は、日本を代表する水泳選手として更なる活躍が期待されていた矢先の発症でした。闘病生活は約1年。現在は回復し練習を再開していますが、東京五輪は断念、2024年のパリ五輪を目標に励んでいらっしゃるそうです。
血液腫瘍内科には、彼女のような近い未来に夢と希望を持った比較的年齢の若い患者さんが多くいらっしゃいます。そのような15歳以上40歳未満の思春期・若年成をAYA世代と呼びます。AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期や若年成人)の略です。日本では、平成30年度より、第3期がん対策推進基本計画に基づき、本格的なAYA世代のがんへの取り組みが始まり、近年注目されています。

地域がん登録の推計によると、AYA世代は新しくがんと診断される人全体の約2.3%にあたります。患者さんの数がきわめて少ないため、最適な治療法が確立していません。またがんとその治療は、学業や就労、育児、家事、介護、恋人・友人などの人間関係などその人のライフプランに大きな影響を与えます。周りの友人たちは就労し友人や恋人と日々日常を過ごしているのに、「なぜ自分が。」と大きな不安と孤独を抱くこととなります。また、「家族や会社に迷惑をかけたくない。」「友人に知られたくない。」など、自分の弱さを見られたくないという思いから、ひとりで不安を抱え込んでしまう方が多いため、AYA世代の治療では、一人一人のライフステージ、ニーズに合わせたきめ細やかな支援が必要と言われています。私も看護師として、何度も何度も患者さんの思いを傾聴し、患者のニーズを把握し、患者力を少しでも引き出せることができるよう支援していました。
ここでAYA世代における特有の問題を一部以下に示しています。

・就職、免許の取得
AYA世代前半の思春期は、心身が成熟して親から自立していく過程ですが、病気の治療や後遺症が、進学・就職・免許の取得等に影響を与え、人生設計や将来の夢の変更を余儀なくされる可能性があります。心理面のサポート、必要な情報の供給、精神的ストレスの軽減は重要です。

・結婚、妊娠、パートナーの妊娠
自分の子供を作る能力のことを“妊孕能(にんようのう)”といいます。がんの治療を開始すると、妊孕能が低下したり、失われたりする可能性があります。将来の挙児希望の意思を確認し、妊孕能を温存するための支援を行うことはAYA世代がんの治療では重要な取り組みです。

・仕事、子育て
この年代でのがん治療は、家庭生活、社会生活への影響がとても大きいものです。患者さん本人や家族の負担を軽減するためには、日常生活への影響を最低限にする必要があります。

・「AYA世代がん」の社会保障制度の欠如
公的費用負担制度という観点でも「AYA世代がん」はサポートされていないという問題があります。小児がんに対する「小児慢性特定疾患」は18歳未満が対象で、18歳以上には適用されません。重症な状態となった患者さんに適用される介護保険も40歳以上が対象となっており、AYA世代に発生するがんの経済的負担が問題となっています。

AYA世代が治療を乗り越えるためには、医療現場だけでなく、その家族や会社、学校など、社会の理解とサポートが重要であることが分かります。長い治療の中でも、自分を見失わずいられるよう、個々のライフステージに合わせた社会の支援が求められています。

現在当センターでは治療と仕事の両立支援が推進活動を行っています。現代は2人に1人ががんに罹患し、労働人口の3人に1人は何らかの疾病を抱えていると言われています。あと50年後には日本の就労人数は半減すると言われており、社員が病気になった時どう対応すべきか、問われる時代になってきています。仕事は多くの人にとって生きがいです。白血病の患者さんに退院後の目標を伺うと、「やっぱり仕事をすることかな。」と言われたことが何度もあります。目標は治療の励みになります。「上司に早く会社に戻ってこいよって言われたんよ。頑張らないかんね。」と日々リハビリを頑張る患者さんの一歩一歩に生きる力を強く感じました。

少しでも多くの労働者の方が、病気になった時に自分の道を見失わず、御自身の人生のイメージを大切に持って、一日一日を立派に生きていけるよう支援し続けたいと思います。そのためには、社会の一人一人の意識を変えていかなくてはなりません。「病気になっても働ける。」今はそんな時代であることを少しでも多くの方に広めて頂けたら幸いです。

参考文献:広島大学HP、AYA世代がん、https://www.hiroshima-u.ac.jp/hosp/cancer/aya

産業保健専門職 福田 せいら

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