産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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空気感染はあるの? 3密回避の一層の徹底を

2020年07月


新型コロナウイルスの第1波は治まりましたが、早くも第2波の兆候が出始めています。
そこで、感染拡大防止対策の参考までに、最近発表されている資料等を基にして、対策の動向を整理してみました。

これまで新型コロナウイルスの感染経路は、主に「飛沫感染」と「接触感染」と考えられており、「空気感染」については議論のあるところでした。

飛沫感染」→咳やくしゃみ等で飛び散ったウイルスを含む唾等の飛沫を、口、鼻、眼等の粘膜から取り込んで感染。
対策は、飛沫を物理的に遮り、リスクを下げる(マスク、フェイスシールド等)。
飛沫を飛ばさない「咳エチケット」も大切です。
飛沫は水分を含むしぶきで重いので、飛び散る距離は、2m程度と言われており、対人距離を2mとることが推奨されています。
ソーシャルディスタンシング(感染拡大防止のための物理的な距離)、ソーシャルディスタンス(社会的距離)、フィジカルディスタンス(身体的距離)

「接触感染」→皮膚や粘膜の直接接触、又は感染者が触ったものの表面にウイルスが付着し、それを触る等の間接的な接触により粘膜から感染。
ウイルスは付着したものの表面で、かなり長時間活性を失わないとのデータがあります(ドアノブ、手すり、ボタンやスイッチ、スマホ・タブレットの表面等)。
対策は、手洗い等皮膚の消毒(石鹸と流水、消毒用アルコール等)、物の表面の消毒(次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、界面活性剤等)が有効です。

「空気感染」→飛び散った飛沫から水分が蒸発した状態で、さらに小さな微粒子(飛沫核)となり、ウイルスが長時間空気中を漂い、広がり、呼吸するだけで、それを吸い込んで感染。
対策は、感染能力がなくなるウイルス濃度まで薄める「換気」が重要です。
マスクは、医療用N95マスクが必要になってきます。

最近、明確な基準はありませんが、上記の分類とは別に、空気中に漂う微細な粒子(エアロゾル)による感染を「エアロゾル感染」と呼んでいます。
(ウイルスは、エアロゾル中に3時間は残存するというデータがあります)
これは形態的には「飛沫感染」ですが、いわゆる「3密」の環境下で、「空気感染」に近い感染が起こっている状態と思われます。

このような感染経路の把握は、対策をとる上での基本的重要事項です。
この感染経路に関して、最近、問題提起がなされ議論になっています。

7月6日に、世界の科学者239人(日本人も含まれる)が、新型コロナウイルスに関する「共同意見書」を、英オックスフォード大学の学術誌「臨床感染症」に発表しました。
その内容は、WHOに対し、「空気感染」の可能性を認識したうえで、対応策の推奨をするように、指針の改定を求めたものです。
科学者らは、感染者が呼出するウイルスを含む微小飛沫(エアロゾル)が、空気中で数10m移動できることが、複数の感染事例の分析でわかった(科学的根拠がある)ので、現状の対策(手洗いや対人距離の確保等)だけでは、微小飛沫からの保護には不十分であり、追加の対策として、

(1) 屋内では換気を良くすること。
特に公共施設、職場、学校、病院、老人ホームといった多くの人が集まる
場所で換気を十分に行うこと。

(2) 高性能の空気ろ過設備(HEPAフィルター等)を設置すること。

(3) 公共交通機関や公共施設での過密を避けること。

等を推奨しています。

感染者からは、さまざまな大きさの飛沫が放出(呼出)されますが、5マイクロメートル以上の飛沫は1~2mで直ぐに地面に落ちます。
それより小さな飛沫は、エアロゾルと呼ばれる霧状の微粒子となり、長い間、空気中を浮遊し、遠くまで移動します。
WHOは、この微粒子による感染は、病院内の「特定の状況」でのみ起こるとしていましたが、病院内に限定されるものではないことがわかりました。
(米疾病対策センター(CDC)の専門誌「新興感染症」)

7月7日、WHO感染予防部門の技術責任者は、世界の科学者グループが、咳やくしゃみで飛び散る「飛沫感染」だけでなく、さらに細かい粒になって遠くまで到達して感染する可能性を指摘したことについて、「人が集まる換気の悪い密閉空間で空気感染が起きる可能性を否定できない」として、新たな証拠に基づいて柔軟に今後の対応を検討していくと述べました。

7月9日、WHOは、「新型コロナウイルスの感染経路に関する新しい指針を公表し、換気が不十分な空間等では、空気中を漂う微粒子「エアロゾル」を介した感染を除外できない」としました。
これまでは明言を避けてきましたが、消極的ですが一部認めました。
指針は、いくつかの研究報告は、エアロゾルによる感染を示唆しているとし、感染が発生している可能性がある場所や状況として、飲食店、フィットネスクラブ、合唱の練習や医療処置中を挙げています。
ただ、確証は得ていない(空気感染の可能性の確認には至らなかった)
ことから、指針では、異なる感染経路をきちんと解明するために「緊急に質の高い研究が必要」としています。

エアロゾル感染が、飛沫感染か空気感染かという論争とは別に、エアロゾル感染の確証が得られた場合に、感染予防対策に、どのような影響が出るのかを考えてみましょう。

(1) ソーシャルディスタンシング(感染拡大防止のための対人距離)
エアロゾルが、人に感染させる能力(感染力→ウイルスの濃度)を持った状態で飛ぶ距離を考慮する必要があります。

(2) 換気→換気の実施とその方法が重要なポイント
前述しましたが、ウイルスは、エアロゾル中に3時間は残存するというデータがあります。
循環式の換気では、ウイルスを部屋中に拡散することになるため、外気の取り入れによる換気(外気でウイルス濃度を薄め感染力を弱める)が必要になります。

(3) マスクの性能
くしゃみや咳による飛沫よりも、呼吸や会話中に出る飛沫の方がずっと小さく、この小さな飛沫「エアロゾル」は、声が大きくなるにつれて多く出るようになると言われています。
不織布マスクは、微粒子に対する捕集効率は、限定的ですので、微粒子は、不織布マスクの隙間から一部漏れ出ます。
又、正しく着用していないと、顔との間に隙間ができて漏れ出ます。
かといって、捕集効率のよい医療用N95マスクを全員が日常生活で使用することや、隙間なく顔に密着させて使用することも、現実的には難しいと思われます。
さらに、これからは、熱中症の問題もあります。
従って、換気、対人距離、人数や時間制限等でカバーすることを考慮する必要性も出てきます。

幸い日本では、専門家会議の見解を基に、感染拡大防止策として、いわゆる「3密」(換気の悪い密閉空間、多くの人が集まる密集空間、手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる密接空間)を回避する施策をとってきました(※)
これらは、感染経路云々ではなく、実際にどういったところで感染拡大が起こっているかに着目した対策ですので、感染経路に新たにエアロゾル感染が加わったとしても、「3密」を回避するという今までの施策に包括されていますので、今後も、これを徹底していくことが、感染拡大防止に有効な手段となると思われます。

(※)厚労省の対策班の研究者グルーフは、2月26日までに感染が集団で発生した10の事例を含む国内の感染者110人を詳しく分析した結果、83人(75.4%)は調査時点で誰にもうつしておらず、二次感染が確認された27人も、半数以上で感染拡大は1人にとどまっていました。
一方で、1人から別の2人以上に感染が拡大した11事例は、ほとんどが屋内に多くの人が集まる閉ざされた環境で起きていて、中には1人から9人、12人に感染が広がったケースもありました。
屋外等の空気の通りが良い環境では、2人以上に感染拡大が確認されたのは2事例だけで、4人以上に拡大したケースはありませんでした。
この分析結果から、空気がよどみがちな屋内の狭いスペースに人が集まるのはリスクがあることがわかり、3密(密閉、密集、密接)回避の取り組みをすることで、感染拡大防止を図っていくことになりました。

10月から始まる全国労働衛生週間でも、「3密」回避の徹底が言われています。
職場における感染対策については、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」を活用して、職場実態を再確認し、「3密」回避を中心に基本的な感染防止対策を推進して行きましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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