産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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新型コロナ、換気の重要性と換気方法-2

2020年09月


空気感染がないと言われているのに、なぜ換気が必要?

先月は、換気の悪い密閉空間では、咳やクシャミで飛び散る「飛沫感染」だけでなく、会話等でエアロゾル化した呼気や唾の細かい粒が空気中を漂い、これを吸入して感染(マイクロ飛沫感染 = 飛沫感染と空気感染の中間ぐらいの感染)する可能性が指摘されていることを紹介しました。

それでは、どのくらいのウイルス濃度の空気を吸入すれば発症するのでしょうか(吸入した人の体調等にもよりますが)。
また陽性者の呼気の中には、どのくらいの数のウイルスがいるのでしょうか。
これらのことは、まだよくわかっていません。

実際のところ、換気によって新型コロナウイルス濃度をどこまで薄めたら感染リスクを抑えられるのかは、確立したエビデンスは無く、明確にはわかっていません。
しかし、このような科学的根拠とは別に、換気は、密閉空間のウイルスを排出し、ウイルス濃度を薄めることで、感染リスクを小さくすることが期待できます。
いわゆる「3密」の1つである「換気の悪い密閉空間」を改善する手段として、積極的に換気することが推奨されています。

現時点では、コロナ対策に決め手はありません。
有効と考えられる対策を総動員して、感染防止を図っていくことが必要です。

密閉空間を改善するための効率的な換気方法は?

1. 機械換気設備(空気調和、機械換気)で、必要換気量を確保する。

厚労省 「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法によると、オフィスや商業施設では、1人当たり 30立方メートル/h の換気量(ビル管理法での空気環境基準)が確保されていれば、感染を確実に予防できるとはいえないものの、換気の悪い「密閉空間」には当たらないとしています。

(科学的根拠に基づく必要換気量は、根拠となるデータが少ないために難しいですが、ソーシャルディスタンシングの確保等の諸対策が行われることを前提とし、上記基準を保つ適切な換気が行われていれば、空気感染リスクは大きくないと考えられています)

ただ、「これだけでは、感染を確実に予防できるということまで明らかになっているわけではないことに留意が必要だ」ともしています。

上記のビル管理法での必要換気量 30立方メートル/h・人 は、作業者が事務作業程度の仕事をしている場合(呼気で二酸化炭素を0.02立方メートル/h・人 排出)に対して、室内の二酸化炭素濃度を1000ppm以下に保つために必要な換気量です。
この換気量を確保することで、人からの臭気や建築材料等から発生する汚染質についても対応できるものと考えられています。
因みに、建築基準法では、静かに腰掛けている状態での二酸化炭素発生量
0.013立方メートル/h・人
を基にして、必要換気量は、
20立方メートル/h・人
としています。

必要換気量が確保できない場合は、換気量に見合った利用者人員にします。
(利用者数に上限を設け、1人当たりの必要換気量を確保する)

留意点は、
・機械換気システムがきちんと働いているか
・給気口や排気口が閉じていないか
・障害物等でふさがれていないか
・換気経路が確保されているか
等を、チェックすることです。

2. 自然換気を利用しましょう → 窓開放換気

(1) 換気回数を毎時2回以上(30分に1回以上、数分間程度、窓を全開)とする。
短時間でも、頻繁に換気するほうが効果的です。
例えば、1時間に10分の換気を1回行うよりは、30分に5分の換気を2回行った方が効果的です。

換気回数とは、部屋の空気が全て外気と入れ替わる回数です → 次式

換気回数 = 部屋に入る外気量(立方メートル)/部屋の容積(立方メートル)
= 必要換気量(立方メートル)/部屋の容積(立方メートル)

一般に必要換気量は、ビル管理法での 30立方メートル/h・人 を使って
算出します。 10人居れば、10人×30 立方メートル/h が 必要換気量

この式でわかる通り、換気の頻度(回数)は、部屋の大きさ(容積)やその部屋にいる人数によって異なります。

(2) 複数の窓がある場合は、2方向の窓を同時に開放し、空気の通り道をつくって空気の流れをよくしましょう。
外気を取り入れる「給気」と空気を外に出す「排気」のルートをつくります。
対角線上にあるドアや窓を2個所開放し、部屋全体に空気の流れをつくると効果的な換気ができます。

風や空気は、小さい隙間から勢いよく入り、大きい隙間から小さな力で出ていきやすいという性質があるので、空気の入り口の窓は小さく開けて、出口の窓を大きく開けると換気効率は更に良くなります。
留意点は、

・ 換気経路(空気の通り道)を考えて、部屋全体の空気を入れ替えて効率的に換気する。

・ 換気が出来ないデットスペース(空気の流れの無いよどみ部分)をつくらない。

・ ショートサーキット(ショートパス)にならないように、空気の入口と出口を出来るだけ遠く離すことが必要です。
入口と出口が近接していると、入ってきた新鮮な外気がすぐに排出されてしまうので換気効率が悪くなります。

・ 窓解放換気は、比較的短時間で部屋全体の空気を入れ替えることが出来ますが、外気の影響で部屋の温度等が変動しやすいので、頻繁に開け閉めし、部屋の環境を維持することが必要です。

(3) 窓が1つしかない場合は、部屋のドアを開けて、扇風機やサーキュレーター等を窓の近くに置き、窓の方に向けて回し、部屋の空気を窓の外に排出するようにします。
扇風機等を部屋に向けて置いてしまうと、外の空気は部屋の中に入ってくるものの汚れた部屋の空気が外に出難くなり、換気効率が悪くなります。

(4) 窓がない部屋の場合は、部屋のドアを開けて扇風機等を置いて、部屋の外に向けて回し、空気が部屋の外に排出されるようにします。
浴室、洗面室、トイレ等に換気扇が設置されている場合は、換気扇を運転することで、他の部屋から流れてきた空気も効率的に外に排出すことができます。

3. 通常の家庭用エアコンでは、換気はできません。
  窓解放換気等を行うことが必要です。

エアコンは、部屋の中の空気を吸い込んで、その空気を冷やしたり温かくした後に、部屋の中に戻す(空気を循環させる)だけで、部屋の中の空気と外の空気を入れ換え(換気)は、できません。

新型コロナウイルス対策のためには、冷房時でも窓開放や換気扇によって、こまめに換気を行う必要があります。
夏場の窓解放換気は、温かい外気が入り部屋の温度が上がりやすくなりますが、エアコンをつけたままで、設定温度を少し低めにする等の調整をし、熱中症にも気をつけましょう。

エアコンは、電源を入れた時に一番多く電気を消費しますので、使用中のエアコンは電源を切らず、稼働したまま換気をした方が効率的と言われています。
(冷房時の窓解放換気前の温度設定は、熱中症対策では少し低めに、消費電力を抑えるためには少し高めにします)

4. 空気清浄機の効果は限定的ですので、換気の補完として使用しましょう。

一般的な空気清浄機では、処理能力が小さいために、処理できる空気量が換気量に比較して少なく、部屋全体の空気の清浄化には難点があり、新型コロナウイルス対策に効果があるかどうかは不明と言われています。

空気清浄機は、換気を補完する目的で使用しましょう。
空気清浄機だけに頼るのではなく、通常の換気(窓開放、換気扇等)を行うことが推奨されています。
空気清浄機を設置する場合は、以下のことに留意しましょう。

・人の近く(10平方メートル程度の範囲内)に設置する。

・設置位置は、換気の空気の流れを妨げない方向や高さとし、空気の流れが
よどまないように配慮する。
(外気を取り入れる風向きと空気清浄機の風向きを一致させる等)

・HEPAフィルタ(0.3 μmの粒子を99.97%以上捕集)による濾過式で、
風量が、5立方メートル/min程度以上のものを使用する。

以上のこと等を参考に、職場の「換気」についてチェックしてみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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