産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
  • ←記事一覧へ

皆さんは、1ヵ月に大体何冊くらい本を読みますか

2020年10月


文化庁が行う「国語に関する世論調査」結果が、毎年10月に発表されています。
前回の全国調査(2019年2-3月3590人対象)では、“全く読まない”との回答が47.3%で最多で、“1-2冊”との回答が37.6%と続きました。「以前に比べて読書量が減ったか?」との問いには、約7割が“減った”と答えています。一方で、「読書の良いところは?」の問いには、“新たな知識や情報を得る”“豊かな表現力や感性を育む”などを挙げる方が多く、“読書量を増やしたい”と回答した方も約7割でした。
忙しい毎日を送る中で、読書に時間をとることが難しい事情も理解できますが、30年前に比較して半減している現状には何か寂しさを感じます。
新型コロナウイルス感染症流行に伴い、書店や図書館に行くのが怖いというご意見もあるとは思いますが、ネットでも注文できるのは有難いことです。私は昔から読書好きで、今でも毎月15冊前後は読みます。正式な専門書も含みますが、一般向け医学書や、ビジネス書、歴史・時代小説などの文芸書、自然科学、ミステリー、語学、旅行記など特定のジャンルにこだわらず、見かけた書籍を手に取ります。精神科医として幅を広げたいとの思いもありますが、研修医のころ、当時の助教授に「とにかく読書をしなさい、知識をつけなさい」とご指導頂いた体験が影響しているのかも知れません。隙間時間に読書する習慣となりました。
さて、私事を続けさせて頂きますが、本年5月に当院におきましてCOVID-19クラスターが発生致しました。患者、ご家族、関係者の皆様には大変なご心配をお掛け致しました。さすがに、この期間中に読書をする余裕はありませんでしたが、ある書籍が頭に浮かんでおりました。それはフランクルの名著「夜と霧」です。もう20数年前に読んだ後はずっと本棚に仕舞い込んでいました。
今回、何故その本を思い浮かべたかの理由については、『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(舟木彩乃著)をお読みになればお分かり頂けると思います。企業コンサルタントを務める舟木氏の同書には、耐えきれない悲しみや不安、苦悩を乗り越えるために必要な3つの感覚(下記)が解説されています。この本は「夜と霧」を題材にして、過酷な体験のなかで前に進むために重要な原動力を指摘したビジネス書です。以前、日経紙に紹介されました。
●「事態を把握することが出来る(把握可能感)」
●「処理の方向性を掴む(処理可能感)」
●「どんな出来事にも意味があると信じる(有意味感)」
ストレス下では、自分(自分の置かれた状況)を見失うことがあります。不安や過緊張状態、あるいは、うつ病を患う方にも多いのではないでしょうか。ベストセラー『うつヌケ』(田中圭一著)では、うつ病から脱する契機になった本との出会いが描かれています。
10月は読書週間です。自身に気付きを与えてくれる一冊に出会いたいものです。

牧 徳彦 産業保健相談員(メンタルヘルス)

記事一覧ページへ戻る