産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質・よもやま話-24 労災事例から学ぶ職場のコロナ対策

2021年01月


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第3波が猛威を振るっており、医療崩壊が心配される状況になってきています。
このような中で、新型コロナウイルス感染症が、業務に起因したものと認められる場合には労災認定がなされています。
では、どのような場合に労災と認められるのでしょうか。
これについては、厚労省から新型コロナウイルス感染症の労災認定の考え方に関する「通知」が、令和2年4月28 日に出ています。
今月は、この「通知」に沿って、労災認定の具体的な事例をご紹介しますので、職場での感染防止にご活用ください。

Ⅰ. 新型コロナウイルス感染症の労災補償の考え方
労働者が業務に起因して(業務上)疾病にかかった場合には、労災と認定されます。
ウイルス等の病原体の感染を原因として発症した疾患については、個別の事案ごとに感染経路、業務との関連性等の実情を踏まえ、業務に起因して発症したと認められる場合に、認定されます。
しかし、新型コロナウイルス感染症の場合は、感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという特性に基づき、当分の間は、調査で感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、認定されます。
このように、新型コロナウイルス感染症の労災の認定は、現在は特別な取扱いがなされており、今後取扱い方法が変わる可能性があります。

Ⅱ.職種に着目すると、以下の3ケースとなります。
ケース毎に具体的な認定事例を紹介します。

【ケース1】
医療従事者等
患者の診療、看護・介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災認定。
以下の事例は、労基署で調査の結果、「業務外」での感染が明らかではなかったので認定されました。

事例1 医師
A医師が診察した患者に発熱等の症状がみられ、その患者は後日新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。
その後、A医師は発熱等の症状が出現し、濃厚接触者としてPCR検査を行ったところ、感染陽性と判定。

事例2 看護師
B看護師は、日々多数の患者に対し、問診、採血等の看護業務に従事していたところ、頭痛、発熱等の症状が続き、PCR検査で感染陽性と判定。

事例3 介護職員
介護職員のCさんは、訪問介護利用者宅で介護業務に従事していたところ、利用者に新型コロナウイルス感染が確認されたため、濃厚接触者としてPCR検査を受けた結果、感染陽性と判定。

事例4 理学療法士
D理学療法士は、病院のリハビリテーション科で業務に従事していたところ、院内でクラスターが発生し、複数の医師の感染が確認された。
それらの医師と接触歴があったD理学療法士にも、咳、発熱等の症状が出現し、PCR検査で感染陽性と判定。

【ケース2】
医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定された場合で、感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合。
下記の事例では、労基署で調査の結果、感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断され認定。

事例5 飲食店店員
飲食店店員のEさんは、店内での業務に従事していたが、感染者が店舗に来店していたことが確認されたことから、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
Eさん以外にも同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。

事例6 建設作業員
建設作業員のFさんは、勤務中、同僚労働者と作業車に同乗していたところ、後日、作業車に同乗した同僚が感染していることが確認された。
労基署で調査の結果、当該同僚以外の感染者との接触は確認されなかった。

事例7 保育士
G保育士は、保育園で保育業務に従事。発熱等の症状が出現したため、PCR検査を行ったところ、感染陽性と判定。
労基署で調査の結果、G保育士以外にも、同時期に同僚労働者や複数の園児の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。

【ケース3】
医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合でも、感染リスクが相対的に高いと考えられる以下に示す1、2、のような労働環境下での業務に従事し、業務により感染した蓋然性が高いものと認められる場合。
この際、ウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断。

1.複数(本人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

事例8 工事現場施工管理業務従事者
工事現場の施工管理業務従事者であったHさんは、担当する現場の施工状況を管理する業務に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間に、換気が不十分な工事現場の事務室において日々数時間現場作業員らと近接な距離で打合せ等を行っており、Hさんの他にも、感染した者が勤務していたことが認められた。
一方、発症前14日間の私生活については、自宅で静養するなど外出はほとんど認められず、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、換気が不十分な部屋で、他の作業者と近接な距離で打合せを行うなどの状況から、当該労働者の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

事例9 建設資材製造技術者
建設資材の製造技術者のIさんは、品質管理業務に従事していたが、発熱、倦怠感の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
発症前14日間に、勤務していた職場の事務室において品質管理に係る業務を行っており、Iさんの他にも、感染した者が勤務していたことが認められた。
一方、発症前14日間の私生活については、日用品の買い物で家族と自家用車で外出したことが1日あったのみで、家族以外の接触はなく、他人との濃厚接触はなかったことが確認され、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、感染した者が事務室を往来していること、他の社員との会話の機会等における飛沫感染を否定できないこと等を踏まえると、当該労働者の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

2.顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

事例10 小売店販売員
小売店販売員のJさんは、店頭での接客業務等に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
発症前の14日間の業務内容については、日々数十人と接客し商品説明等を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物や散歩などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、接客中の飛沫感染や接触感染が考えられるなど、当該販売員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

事例11 タクシー乗務員
タクシー乗務員のKさんは、乗客輸送の業務に従事していたが、発熱の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
発症前の14日間の業務内容については、日々数十人の乗客(海外や県外からの乗客を含む)を輸送する業務を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、密閉された空間での飛沫感染が考えられるなど、当該乗務員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

事例12 港湾荷役作業員
港湾荷役作業員であったLさんは、トラックへの荷渡し業務等に従事していたが、発熱の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
発症前の14日間に、荷渡しの際の確認のため、日々不特定多数のトラック運転手等と近距離で会話を行っており、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、事業場において不特定多数の者との近接・接触の機会が認められ、当該作業員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

事例13 調剤薬局事務員
調剤薬局事務員のMさんは、処方箋の受付、会計、データ入力などの業務に従事していたが、発熱の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ感染陽性と判定。
発症前の14日間に、受付カウンターで日々数十人の処方箋の受付などの業務を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物程度で、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、不特定多数の医療機関受診者に対応した際の飛沫感染等が考えられるなど、当該事務員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

なお、令和2年12月末時点で、労災請求は2,720件、決定件数は1,475件となっています(請求事案の調査が進めば、決定件数は増加します)。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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