産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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新型コロナ感染防止対策と熱中症予防措置との両立

2021年05月


新型コロナの感染拡大で、緊急事態宣言の実施区域が拡大され、かつ実施期間も延長されました。
職場においても、新型コロナの感染は拡大しており、令和3年5月7日までの新型コロナ感染症による労災認定者数は5,875人、うち死亡者は24人にもなっています。
ワクチン接種も始まりましたが、この効果が現れ始めるのは、数カ月先になると言われています。
このような状況下ですので、この夏は「With コロナ」で乗り切らねばなりません。

一方、最近の夏は、猛暑が常態化しており(地球温暖化やヒートアイランドの影響?)、これからの時季は熱中症予防措置にも特段の注力が必要です。
令和2年における職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、元年を上回り、959人と多くの方が被災し、うち死亡者は22人となっています。

従って、これからの時季の職場の衛生管理は、コロナ感染防止対策を行いながら熱中症予防措置を講ずるという両面の対策が必要です。

Ⅰ.基本的なコロナ対策の徹底

厚労省からは、5月10日に厚労省労働基準局長名で、「緊急事態宣言の延長を踏まえた職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防及び健康管理について」という労使団体長あての協力依頼(今回で8回目)が出されて、対策の徹底が要請されています。

下記のとおり「基本的な対策」には変わりませんが、「各対策の内容の徹底」が必要です。昨年の「成功体験」(先月号参照)は通用しません。

(基本的なコロナ対策)

(1).人との接触を低減する取組→在宅勤務(テレワーク)、時差出勤、自転車通勤等、従業員の移動を減らすためのテレビ会議の活用、発熱等の症状が見られる従業員の出勤自粛

(2).感染防止のための取組 → 身体的距離の確保、マスクの着用、手洗い
(人と人の間の距離確保、手洗い、手指消毒、触る箇所の消毒、咳エチケット、事業場の換気、人が集まる休憩室、更衣室、喫煙室、食道等、社員寮等の集団生活の場での対策等)

(3).「3密(密集、密接、密閉)」や「感染リスクが高まる「5つの場面」」等を避ける行動の徹底
(多人数での飲酒・飲食、会話(マスクなし)、共同生活、居場所の切り替わり)

昨年は、各対策の実践(徹底)度は、例えば50%程度でうまくいった(感染者が低減した)のだから、今年もこの程度の実践(徹底)度でよかろうとする「成功体験」に基づく対処では「ダメ」です。
それは変異株の出現で、状況が大きく変わってしまったからです。
現在、従来よりも感染しやすい、重症化しやすい可能性のある変異株や、ワクチンが効きにくい可能性のある変異株が世界各地で報告され、日本にも入ってきています。
基本的な感染予防策の内容は、これまでと同様で有効 (厚労省)ですが、今まで以上に「内容の実践(徹底)度を格段に上げる」ことが必要です。
「コロナ慣れ・疲れ」とか言っている場合ではありません。

Ⅱ. 熱中症予防措置との両立

これからの時季は、上記のコロナ感染防止対策を行いながら熱中症予防措置をも講ずるという両面の対策が必要です。
職場での具体的対応としては、どうすればよいのでしょうか。
既に発表や報告されている資料を基に考えてみましょう。

1. コロナ感染防止対策の影響で熱中症に罹り易くなる?
熱中症予防措置に、マイナス因子(障害)として作用する可能性のあるコロナ感染防止対策

(1).マスクの着用(詳細は後述)

(2).換気の励行(以降の詳細は次回)

(3).人と人との接触を避ける→従業員間の距離の確保(ソーシャルディスタンス)
周囲にいる者同士が、お互いに声を掛け合い、注意をし合うことが熱中症予防においては重要ですので、人と人の「つながり」が減少してしまうことで、熱中症の発症リスクを上げてしまうことになりかねない。
不要不急の外出を控える・自粛→ステイホーム→暑熱馴化が不十分

(4).密接・密集の排除→休憩室等の人数制限等
冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所で自由に休憩や水分・塩分の摂取等ができない。

2. コロナ感染防止対策が熱中症予防措置にも有効となるもの(プラス因子)
日頃の体温測定、健康チェック等は、コロナ感染症だけでなく、熱中症を予防する上でも有効です。

Ⅲ.問題点と具体的対策

熱中症予防措置に、マイナス因子として作用する可能性のあるコロナ感染防止対策の内でも、特に注意が必要なポイントとしては、(1).作業中のマスク着用と、(2).換気による室温上昇の2点と考えられます。
実際の現場において、熱中症予防対策とコロナ感染防止対策のいずれを重視すべきかは、現場で判断に迷うことも少なくないと思われますが、その現場の作業実態等から、それぞれのリスクの大きさを考慮して判断することになると思われます。
この判断が困難な場合は、予め、「マスクを外してもよい場合」と明確に基準化し、全員に周知しておくのも一つの方法です。

1. 作業中のマスク着用についての問題点とその対策
(マスク以外の因子については、来月に説明します)

マスクを着用している場合には、強い負荷の作業や運動は避け、喉が渇いていなくてもこまめに水分補給を心掛けるようにしましょう。
また、周囲の人との距離を十分にとれる場所では、適宜、マスクをはずして休憩することも必要です。

・マスク等の選択と着用
作業の種類、作業負荷、環境、気象条件等に応じて「飛沫飛散防止器具」を選択します。
飛沫飛散防止器具とは、不織布マスク(サージカルマスク)、布マスク、ウレタンマスク、フェイスシールド、マウスシールド等 →以後「マスク等」

厚労省の専門家組織は、5月6日の会見で、布やウレタン製のマスクでは、飛沫を防ぐ効果が低くなると指摘し、不織布を使ったマスクの着用を改めて推奨しました。
また、二重マスクだと飛沫の阻止率が高まったとする米疾病対策センター(CDC)の報告を引用して、顔との隙間を減らすことができれば、効果が高まると、フィットさせることの重要性を説明しました。

しかし、これからの高温・多湿の時季に、二重マスクをすれば熱中症のリスクも高くなると考えられますので、マスクでの飛沫の阻止率も重要ですが、マスクを装着していない時(会食等)の感染リスクをいかに減らすかの方がもっと重要かと思います。
まずは、マスク装着が必要な時には、必ず装着する、不織布マスクを顔面にフィットするように装着することを徹底しましょう。

・マスク等の着用で、息苦しさ、不快感、円滑な作業や災害防止上必要なコミュニケーションに支障をきたすことも考えられます。
感染防止の観点から着用を厳守すべき作業や場所、周囲に人がいない等のマスク等を外してもよい場面や場所等を明確にし、関係者に周知しておくことが必要です。

例えば、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合で、大声を出す必要がないときには、マスクを一時的に外して休憩してもよい。
また、息苦しくなったり、体調が悪いと感じたら周囲の状況をみながらマスクを外すようにする・・・等々。
適宜マスクを外して休憩することも大切です。

・ Robergeらの研究結果(室内のジョギングマシーンで1時間、5kmの運動負荷を与えた)では、マスク着用時は、心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇する等、身体に負担がかかり、顔の表面温度は、マスクをつけていない人に比べて、1.7℃ほど高かったという報告があります。

高温・多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症になるとまでは言えませんが、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。
特に重労働や運動時には、マスク内の温度が上がり、熱が体内にこもりやすくなりますので、強い負荷の作業や運動は避けて、身体からの発熱を極力抑え、身体負荷を減らすことが必要です。

・現在までのところ、作業中における感染防止対策のための不織布マスク等の着用については、熱中症の発症リスクを有意に高めるとの科学的なデータは示されておらず、着衣補正値のWBGT値への加算は必要ないと考えられています(厚労省)。
しかし、負荷の大きい作業等で息苦しい時は、こまめの休憩と十分な水分・塩分補給をしましょう。
防じんマスク等、作業に必要なマスクは、しっかり着用をしましょう。

・マスクで口が覆われ、マスク内の湿度があがっていることで、喉の渇きを感じ難くなること(口渇の鈍化)があり、水分補給が遅れがちになり、気づかないうちに脱水症状になってしまう場合があります。
また、マスクを外してはいけない、面倒との思いから、気づかないうちに水分補給を避けてしまい、熱がこもって体温が高くなる可能性があります。
従って、喉の渇きを感じなくても、意識して、定期的に、こまめに水分・塩分を摂取するよう周知し、徹底を求めることが必要です。

作業中も、労働者の顔や状態から、心拍や体温その他体調の異常がないかを巡視等でよく確認をする必要がありますが、マスク等で顔が隠れると、熱中症の初期症状を見逃すことがありますので注意が必要です。

次回は、換気、ソーシャルディスタンス、密接・密集の排除等のコロナ感染防止対策と熱中症予防措置との両立について考えてみます。

皆さんの職場の安全衛生委員会においても本課題について調査・審議し、今までの対策を「昨年以上に徹底」して、この夏を乗り切りましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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