産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもやま話-29 新型コロナ感染防止対策と熱中症予防措置との両立-2

2021年06月


これからの時季の職場の衛生管理は、コロナ感染防止対策を行いながら熱中症予防措置を講ずるという両面の対策が必要です。
新型コロナワクチンの接種が進んできていますが、これによって集団免疫の効果が得られるかどうかは、まだわかっていません。わかるまでには、時間を要すると考えられています。
場合によっては、集団免疫が獲得できず、インフルエンザと同様に毎年ワクチン接種をして、新型コロナと共に生きていくことになることもあり得るとのことです。
従って、熱中症対策との両立は、今夏だけの問題ではなく、毎年のこととなるかもしれません。

ところで前月は、熱中症予防措置にマイナス因子(障害)として作用する可能性のあるコロナ感染防止対策として、「マスクの着用」を見てきました。
今月は、コロナ感染防止対策で、熱中症発症リスクを上げることが懸念される次の事項について説明します。

(1) 換気の励行による「職場環境温度の上昇」
(2) 不要不急の外出を控えることによる「暑熱への順化の遅れ」
(3) 冷房の効いた休憩場所等への「密集」
(4) ソーシャルディスタンスで、「声掛・相互注意等の不足」
(5) 熱中症か、新型コロナウィルス感染症か、の「鑑別が難しい」

(1) 換気の励行による「職場環境温度の上昇」

→エアコンの温度設定をこまめに調整し換気をしましょう。

熱中症予防のためにはエアコンの活用が有効です。
しかし、一般的な家庭用エアコンでは、空気を循環させるだけで、換気を行っていませんので、新型コロナウィルス感染症対策では、リスク要因の1つである「換気の悪い密閉空間」となります。
従って、これを改善するために、冷房時でも換気扇や窓開放によって換気を確保することが必要となってきます。
冷房時に換気をすることで、室内温度が高くなりますので、熱中症予防のためには、室内温度を常に確認し、エアコンの温度設定をこまめに調整します。
(熱中症予防では、室温 28℃、湿度 70%以下が目安とされています)
このようにして、熱中症対策と新型コロナウィルス感染症対策を両立することが必要です。
換気は、気温が上がらないようにレースカーテンやすだれ等で直射日光を避け、エアコンをつけたまま、窓やドアなど2か所を開けることで、空気の流れができ、スムーズに換気をすることができます。
(窓の開放は、10~15cm程度、換気をする2つの窓等の位置関係は、部屋の対角線上が良い)
窓が1つしかない場合は、キッチンの換気扇を作動させたり、扇風機を天井に向けて回すことで空気の流れができて、換気ができる上、エアコンの冷たい風が、部屋全体に循環して良い効果が得られます。
このように扇風機、換気扇、サーキュレーター等も、上手に併用しましょう。

換気時のエアコンの設定温度は、換気を行いながらになるため少し低めの26℃前後に設定し、こまめに室温調整を行います。
厚労省の熱中症予防に留意した「換気の悪い密閉空間を改善するための換気の方法」では、部屋の窓を風の流れができるように、毎時2回以上は開放(数分程度/回)し、換気を確保することが推奨されています。
換気の詳細は、本メールマガジンの2020年8月号、9月号「新型コロナ、換気の重要性と換気方法-(1)、(2)を参照してください。

(2) 不要不急の外出を控えることによる「暑熱への馴化の遅れ」

→暑さに備えた体づくりをしましょう。
水分補給をしながら適度の運動をしましょう。

体内の熱を放出するためには、汗をかく必要があります。
上手に汗をかくには、暑さに徐々に慣れていく「暑熱順化」が必要です。
(暑熱順化とは、身体の機能が暑さに慣れて、汗をかいて体温を下げる等の対処ができるようになることで、具体的には、発汗量、皮膚血流量の増加、汗に含まれる塩分濃度の低下、血液量の増加、心拍数の減少等として、暑さに体が適応していくことです。この順化は、数週間程かけて、ゆっくりと起こります)

今年は、新型コロナウィルス感染症の影響で、外出自粛の生活が続いたことから、汗をあまりかいてなく、「暑熱順化」ができていません。
さらに運動不足のために、水分を貯める機能を持つ筋肉が減り、体内に熱がこもりやすくなっています。
これらのことから、熱中症発症リスクが高まっていると考えられます。

対策としては、適度な運動(やや暑い環境で、ややきついと感じる強度で、毎日30分程度)や、お風呂等を活用して汗をかくことで、暑さに慣れる(暑熱化を獲得する)ことです。
例えば、屋内で出来る体操等や軽い運動で、自宅での活動量・運動量を増やし身体の準備を行いましょう。(屋内で座ったまま過ごさず、足踏み、体操等の軽い運動、スクワット等)屋外でも、気温の低い早朝や夕方等の時間帯を選んで人混みを避けて、小人数でのウォーキング等、暑熱順化を獲得するために運動を行いましょう。
(1日30分程度のウォーキングを週4回、1~4週間程度続ける)
コロナ禍の中での屋内・屋外での運動の留意点(スポーツ庁HP)等を参考にして、無理のない範囲で行いましょう。

汗をかいた後は、「水分補給」を忘れないことが大切です。
屋内でも、屋外でも、喉の渇きを感じなくても、こまめに水分補給をしましょう。
屋内で、あまり動かず過ごしていると、水分摂取が少なくなりがちです。
事務的な仕事では、身体的に強い負荷がかかる仕事は少なく、汗をかくことは少ないので、水分摂取について、意識されていませんが、乾燥した室内でじっと座っているだけでも、2時間で約250mlの水分を失います。
熱中症予防のためには、喉が渇く前にこまめに水分をとることが大切です。

一般的に、食事以外での1日の水分摂取量の目安は、1.2リットル程度と言われています。
これを一度に飲むのではなく、1回200~250mlを1時間に2~4回に分けて飲むようにします。
この際、塩分やミネラルも汗と一緒に身体の外に出ているので、塩分やミネラルもとるようにすることも大切です。
経口補水液(水に食塩とブドウ糖を溶かしたもの)、ポカリスエット等の経口飲料水を意識的に摂取するようにしましょう。

(3) 冷房の効いた休憩場所等への「密集」

→休憩時間をずらす等の配慮をしましょう。

熱中症対策として涼しい休憩室は重要な予防策です。
作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所(人が横になることのできる広さ)を確保します。
休憩室は3密(密閉、密集、密接)の状態になりやすく、新型コロナ感染症に対する注意が必要です。

例えば、休憩時間は一律ではなく、休憩時間をずらして設定(スケジュール調整)
し、一度に休憩する人数を減らし「密」になることを避けるようにします。
人数制限等で直ぐに休憩室に入ることができない場合は、屋外でも日陰や風通しの良い場所で待機するようにします。
休憩室の椅子は距離を空けて置き(ソーシャルディスタンス)、対面とならないように設置し、対面での食事や会話を避ける等の配慮が必要です。
また換気にも忘れずに実施することが必要です。

(4) ソーシャルディスタンスで、「声掛・相互注意等の不足」

→意識して目配り、気配り、声掛けをするようにしましょう。

熱中症予防には、周囲にいるもの同士が、お互いに声を掛け合い、注意をし合い、安全を確認することが大切です。

熱中症は、本人は自分の症状に気づけないことも多く、何事もないかのような振る舞いをすることもあります。ボーッとしていたり、体に力が入らない、ふらつきなど軽度の症状から急に意識を失うような重度の症状に転じることがあります。
「なんか変だなぁ」と思ったら迷わずに声をかける、何か異常があったらすぐに伝えられる(連絡がつく)ようにしておきましょう。
新型コロナ感染症対策で、物理的な距離をとることは必要ですが、これで人間関係までが距離をとり希薄にならないように留意しましょう。

(5) 熱中症か新型コロナウィルス感染症かの鑑別が難しい場合

→体調管理記録が役立つ場合があります。

日頃の体調管理を行い、観察記録をつけておきましょう。
体温測定、健康チェックは、平熱を知っておくことができ、発熱に早く気づくことができます。
新型コロナウィルス感染症だけでなく、熱中症を予防する上でも有効です。
発熱や体調不調等の症状が見られたら、毎日体温を測定し、症状を記録しておきましょう。
外出したのはいつ頃か、どこに行ったかというのも、記録しておきましょう。
仮に病院を受診する際にも、新型コロナウィルス感染症の疑いがあるのか、それとも熱中症が疑わしいのかは、発熱の期間や呼吸困難の出現の有無など、今までの体調の変化や接触歴の有無からも判断されます。
自身の近況を記録しておくことで、治療する医師の判断の一助になれば、迅速な治療に移行できる可能性があります。

熱中症予防のための 7つのポイント(提言より)を紹介します。

① 3食をきちんと食べる
② 喉が渇いたなと感じ始めたら水分摂取(多量のカフェイン摂取を控える)
③ 経口補水液を家族1人2本×3日分常備
④ クーラーをすぐつけられるよう調整し、暑いと感じる場所にいない
⑤ 換気をこまめにし、湿度も高くならないよう注意
 (環境省ウェブサイトで毎日発表される「暑さ指数」をチェック)
⑥ 快適な環境でよく睡眠をとる(疲労も熱中症リスク)
⑦ 人混みを避けた散歩や室内での軽い運動を行う

あなたの職場で「新型コロナ感染防止対策と熱中症予防措置との両立」がうまくいっていますか?
もう一度見直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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