産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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健康を貯金し「健康寿命」を延ばそう

2022年01月


新年あけましておめでとうございます。
「1年の計は元旦にあり」と、今年は健康に良いことを実行しようと決意してスタートした方もいらっしゃるかと思いますが、3日坊主でなく完遂されることを祈念します。

さて先月は、次のようなことをご説明しました。
医療の進歩や健康意識の高まり等で、年々長寿化が進んでおり、2020年の平均寿命は、女性(87.74歳)、男性(81.64歳)となっています。
2020年版・高齢社会白書 (2020年7月)によると、60歳以上の人に聞いたら、多くの人が70歳を過ぎても働きたい。働けるうちはいつまでもが20.6%となっています。
一方、少子高齢化の急速に進展に伴い、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮して働いていただくことは、ありがたいことです。
そこで、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化することが努力義務になりました(改正高年齢者雇用安定法)

しかし、会社に残って働くにしろ、社会貢献事業に就くにしろ、それなりの健康状態が必要です。
平均寿命は前記の通り延びていますが、寿命がいくら延びても、要介護状態や寝たきりの状態が長ければ、働くことはできませんし、充実した老後を送ることはできません。
老後生活を考える上で、いつまで健康に生活できるかを考える指標として「健康寿命」と言うものがあります。

健康寿命の定義
健康寿命とは、「日常生活に制限のない期間」の予測値をいいます。
「日常生活に制限がない」とは、介護など他人に頼らずに自立して健康に生活できることです。
厚労省の公表(2021.12.20 )によると、介護の必要がなく健康的に日常生活が送れる期間を示す「健康寿命」は、男性は72.68歳、女性は75.38歳(令和元年値)です。
健康寿命は、平均寿命の延びとともに延びていますが、平均寿命ほど延びていない点が課題です。
また、健康寿命との差(延命期間→日常生活に制限のある期間)は、男性が8.7歳、女性が12.07歳となっており、女性の方が長くなっています。
今後の課題としては、健康寿命を延ばし、延命期間を短くすることです。
「いかに長く生きるか」から、「いかに良く生きるか」という生活の質(QOL)の重視。

人生100年時代を迎えて、国は「誰もがより長く元気に活躍できる社会」の実現に向けて次の政策課題を掲げています。
多様な就労・社会参加(70歳までの就業機会確保など)

・健康寿命の延伸

・医療・福祉サービス改革プラン
(ロボット活用・システム化などによるサービス提供の効率化)

具体的には、「健康寿命延伸プラン」にて次の取り組みを推進します。

・次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成等

・疾病予防・重症化予防

・介護予防・フレイル(健康と要介護の中間にあたる状態)対策、認知症予防

これらは、次回にできるだけ長く健康な体で居られるためにはどうすればよいのかを、サルコペニア、ロコモティブシンドローム等も含め、少し詳しく説明します。

ここからは、先月の続き「エイジアクション」による職場のチェックです。
今後、職場では高齢者がますます増加し、健康問題を始め、いろいろな課題への対応が必要になってきます。
産業保健スタッフとしては、今後、どのような受け入れ準備・ケアが必要になるのか、以下に記載した「100のエイジアクション」 (高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト)を使ってチェックし、不十分なところは整備していきましょう。

高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト
100の「エイジアクション」 チェック項目 (続き)

43 天気予報や熱中症予報で把握した熱中症発生の危険度に応じて、作業の中止、作業時間の短縮等ができるように、余裕を持った作業計画を立てている。

44 暑さ指数(WBGT値)を測定して、基準値を超える(おそれのある)作業場所
(高温多湿作業場所)については、必要な熱中症予防対策を行っている。

45 簡易な屋根、通風・冷房設備や、ミストシャワー等の暑さ指数を下げるための設備を整備している。

46 作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰等の涼しい休憩場所を整備している。

47 クールジャケット等の透湿性・通気性のよい服を着用させるとともに、直射日光下では、通気性の良い帽子(クールヘルメット等)を着用させている。

48 暑さ指数が高いときは、作業の中止、作業時間の短縮、こまめな休憩、身体作業強度の低い作業への変更、作業場所の変更等を行っている。

49 暑さに慣れるまでの間(梅雨明け直後、長期の休み明け等)は十分な休憩を取り、1週間程度以上かけて除々に身体を慣らすようにしている。

50 自覚症状の有無に関わらず、定期的に水分・塩分を摂取させている。

51 健康診断結果に所見のある高年齢労働者に、高温多湿作業場所で作業をさせる場合には、医師の意見を聴いて、適切な就業上の措置(作業時間の短縮、就業場所や作業内容の変更等)を行っている。

52 作業開始前に、睡眠不足や体調不良の有無等の問いかけを行って、健康状態を確認している。

53 高温多湿作業場所での作業中は、巡視を頻繁に行って、暑熱環境や健康状態等を確認している。

54 高年齢労働者の身体・精神機能には個人差が大きいことを踏まえて、個々人の状況に応じて、作業負荷が大きすぎないように、作業内容をきめ細かく調整している。

55 作業開始前に、準備体操やストレッチ体操を行い、体を十分にほぐしてから作業に着手できるようにしている。

56 強い筋力を要する作業や長時間にわたって筋力を使用する作業は減らしている。

57 呼吸が乱れるような速い動作を伴う作業や瞬時の判断を必要とする作業をなくすとともに、緊急の場合でも、過度な作業負荷がかからないようにしている。

58 担当する作業の量や到達点を事前に明示するほか、自らの作業の進捗状況を確認できるようにしている。

59 作業負荷が大きくなりすぎないように、作業ペースや作業量を個々人に合ったものとなるように調整している。

60 休憩時間のほかに、トイレに行くための時間や作業の休止時間を取ることができるようにしている。

61 高度な注意の集中を必要とする作業の継続時間が、長くなりすぎないようにしている。

62 疲労やストレスを効果的に癒すことができる休憩室、シャワー室、相談室、運動施設等を設置している。

63 書面・ディスプレイ(表示画面)、掲示物等の文字の大きさや色合いは、見やすくなるように工夫している。

64 手元や文字が見やすくなるように、職場の明るさを確保している。

65 近い距離での細かい作業を避けて、見やすくなるように、作業者と作業対象物との距離を調整している。

66 会話を妨げる背景騒音の音量を小さくし、警報音を聞き取りやすくしている。

67 会話を聞き取りやすくなるように工夫するほか、聞き取りが難しい場合には、見て分かる方法(書面、回転灯、タワーランプ等)によっている。

68 寒冷環境に長時間さらされないように作業計画を立てている。

69 寒冷環境下での作業を開始する前に、体を温めるための準備運動を行うとともに、作業時は、保温性のある防寒具(服装、手袋、帽子、靴等)を着用させている。

70 病気であったり、体調が不良であったりする高年齢労働者も見られること等を踏まえて、きめ細かな健康管理を行っている。

71 法令に基づく健康診断の対象外となる場合もある定年退職後に再雇用された短時間勤務者や隔日勤務者等についても、健康診断を実施している。

72 健康診断結果に所見がある場合には、医師等の意見を勘案して、就業上の措置(作業時間の短縮、作業内容の変更等)を確実に行っている。

73 所見のある健康診断結果を踏まえて、医師等から意見を聴取する際には、医師等が判断を行うに当たって必要となる本人の就業状況に関する情報(作業時間、作業内容等)を的確に提供している。

74 保健指導や健康相談等においては、健康診断の有所見の状況やその経年的な変化に応じて、必要となる具体的な取組内容(運動、休養・睡眠、食事、節度ある飲酒、禁煙、口腔衛生等)を指示している。

75 健康診断において生活習慣病が把握された場合には、保健指導による進行の抑制に加えて、精密検査や医療機関への受診の勧奨を行っている。

次回に、76~100をチェックいたします。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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