産業保健コラム

石戸谷 武 相談員

    • 産業医学
    • 前 聖カタリナ大学教授
      ■専門内容:心臓外科・循環器科・産業医学
  • ←記事一覧へ

寿命の限り健康でありたい

2022年05月


秦の始皇帝は「不老不死」を追い求めました。でも「不老不死」は現実にはあり得ないことと思ってきました。
ところが世界の科学者は「不死」はともかく、「不老」は実験では成功し・出来る、そして人体への道筋が見えてきました。
一般に「年齢を重ねる」という事は体の各部が「老化」する事と思い自然なことだと思ってきました。一方で日本人の平均寿命は延びましたが健康寿命(自立して介護支援を受けない年齢)との間にまだ9~12年の差があります、この差は不健康・不自立ということで、この期間が0年でありたいと誰しも願っているところです。
先の科学者たちはこれについて研究を競ってきており、実験の段階では良い結果を出してきました。
その発表された論文によると

{老齢マウスに、GLS-1(Glutaminase-1)という酵素の働きを阻害する薬剤を投与
したところ、老化細胞の多くが除去され、老年病や老化が改善した}
・・その結果{老化細胞が生存するメカニズムを解読出来た。
しかも老化細胞を選択的に除去するための薬を導き出した}ということです。

これを科学者が分かり易く書いた本が :中西真「老化は治療できる」(宝島社新書)
2021.12.24に出版されたので紹介します。以上の結論を説明します。

「老齢マウス」:「このマウスは完全に同じ遺伝子を持っている純系動物です。
実験では月齢24ヶ月(人間の60~70歳に相当)のマウスを使用した」。
実験では同じ条件下のマウスを用いることが重要です。

「GLS-1(Glutaminase-1)」:これはグルタミン(体のなかに最も多くあるアミノ酸)の代謝に関わる酵素で、細胞のエネルギーの回路に深く関係し、これにより細胞が増えることになります。細胞が多くなると、細胞の老化が始まります。
科学者はこれが多くなるのを阻害すれば老化を防ぐことになると考えました。

「老化細胞」:体の細胞は約50~60回分裂し増殖すると後は分裂を止めます、これが老化細胞と言われるものです。普通はマクロファージ(白血球のなかの単球が組織に出てきたもの)が食べて処理しますが、処理されずに生き延びた老化細胞が色々作用を及ぼします。一つは慢性炎症を起こし、所謂老化の症状を示します。またこの炎症が「がん」の引き金にもなります。

「GLS-1酵素を阻害する薬剤」:アメリカで研究されている制癌剤はすでにフェースⅡの段階に入っています(これは人体の結果)。この制癌剤が「がん細胞」の増殖を抑制しますが、GLS-1酵素を阻害することで老化細胞が増えない(即ち老化が始まらない)と考えられます。
実験で人工的に創り出した老化細胞にこの阻害剤を加えると老化細胞が特異的に死ぬことが観察されております。

「老年病や老化が改善された」:マウスの実験結果として分かった事は次のようになります
1)60歳の老いたマウスの「筋力」が30歳レベルまで回復。
2)老化に伴う腎機能低下が回復。腎の糸球体の血管は老化で硬化する。
硬化した血管の数が減少した。

3)「クレアチニン数値(腎機能検査)が改善した。
4)加齢で線維化した肺の機能も回復:「慢性の閉塞性肺疾患」や「肺気腫」は高齢者によく見られる。
5)肝の炎症細胞の浸潤もきれいに抑制:血清アルブミンは肝で造られ、老化で落ちた機能が阻害剤で回復する。
6)動脈硬化は著しく改善し、血管が若返ったように硬化が改善する。
7)脂肪組織の老化細胞が除去されることで、耐糖能が改善(老化で組織のインスリン感受性低下すると血糖値が上がったままで糖尿病を示すことが改善される)
8)筋力、心肺機能の改善で運動能力が増し、結果認知症の発症が抑えられる。

〇まとめ:実験結果からして、人体応用は間もないと考えられます。これが実現すると老化という言葉は使われなくなり、人生が終わる寿命が尽きる時まで健康に自立出来ることになるでしょう。

追伸:この事は2月初めの民放モーニングショウでも似たことをやっていました。

産業保健相談員 石戸谷 武(産業医学)

記事一覧ページへ戻る