産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-11

2016年09月


今月は、「作業環境測定結果を用いた具体例(中災防方式)」を説明します。
これは、平成21年に「化学物質管理支援事業」の一環として実施した「化学物質リスクアセスメントのモデル事業場指導」(健康障害防止関係)で用いられた方法です。

ステップ1~4. リスクアセスメント対象作業の作業実態把握

例えば、対象作業の実態が次のとおりとします。
a.使用物質等 アセトンを用いた洗浄作業
b.シフト内接触時間 7時間 / 日
c.作業頻度 5日 / 週
d.取扱量 120リットル / 日
e.対象作 業者 2名

ステップ5. ハザード評価

a アセトンのSDSを入手し、「健康に対する有害性」に対応するGHS区分を調べる。

b 「GHS区分によるハザードレベル(HL)決定表」により、aで調べたGHS区分の各項目に格付けを行います。

ハザード評価はハザード格付け(HL)として5~1とSに分類しています。
原則として対象化学物質で最も重篤なGHS区分でリスク評価を行います。
アセトンの場合、生殖毒性 区分2 →ハザードレベル(HL) 4
眼に対する重篤な損傷性 / 眼刺激性 区分2 →ハザードレベル(HL)S
Sは皮膚障害の可能性を示すもので、保護具の着用が求められます。

ステップ6. ばく露評価(ばく露の程度を評価)
1. ばく露評価(EL1)

(1)作業環境濃度レベル(WL)を求ます。
作業環境測定値が無ければ、基準値との比較からのばく露評価はできません。

a アセトンによる洗浄作業の作業環境測定値 71.9ppm(A測定の算術平均値) → B測定値がある場合にはB測定値と比べ高い値を用いる。

b 管理濃度がある場合には管理濃度に対する倍数を、また管理濃度がない場合には許容濃度(日本産業衛生学会またはACGIH)に対する倍数を算出します。
SDSに、管理濃度、許容濃度、TLV-TWA 等が複数記載されている場合は、最も小さいものを用いると、安全サイドで管理できます。
アセトンの管理濃度に対する倍数→測定値71.9 / 500(管理濃度)= 0.14

c 次表より作業環境濃度レベル(WL)を求めます。
指標となる基準値に対する測定値の倍数から、作業環境濃度レベル(e~aの5段階)を求めます。

===================================

作業環境濃度
レベル(WL)    e    d     c     b    a

管理濃度等に
対する倍数   5≧1.5  1.5≧1.0  1.0≧0.5 0.5≧0.1 0.1>

===================================

したがって、作業環境濃度レベル(WL)は、0.14 → b となります。

上記の表において、 管理濃度等に対する倍数が5倍以上の場合は、ばく露評価(EL1) = 5 (ばく露レベルの最高)とします。

混合物の場合において、作業者が複数の化学物質にばく露しており、それらの化学物質が互いに独立して作用しているか否かが不明なときには、それらは相加的に作用するものとして扱い、「加算管理濃度等 = 1.0」を用います。

混合物の管理濃度等 = C1 / 管理濃度等1 + C2 / 管理濃度等2 +

…Cn / 管理濃度等

作業環境測定値を用いる場合は、既に換気の要素は評価されています。
(局所排気装置等を設置している場合は、その結果としての作業環境濃度となっています)

リスク評価結果の正確性について、個人ばく露量の測定法と比べると、作業環境測定値を用いる方法は、一般に低くなります。
(作業環境測定による方法は、作業位置等によって、ばく露濃度にバラツキが生じる等、作業者個人の暴露量が正確には反映されていない)
しかし、ばく露限界等の公表されている数値との比較で評価しますので、後述する作業環境レベルを推定する方法(定性的評価)に比べ、一般に正確性は高くなります。

なお、当時のモデル事業場指導の中では、実測が技術的に難しい化学物質について、リスクレベルが III 以上になった場合は、特化則等で決められている性能要件を具備した局所排気装置等が設置されていて、定期自主検査指針における判定基準のすべてを満足していればリスクレベルをIIとしてもよいとの見解が示されています。(モデル事業場指導結果検討委員会)

次号に続く。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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