産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-19

2017年05月


今月は、先月に引き続き、生産工程・作業方法の改良等によるリスク低減措置を説明します。

4.取り扱う化学物質が液体の場合は、蒸発量(消費量)をできるだけ少なくするための対策をとる。

蒸発した化学物質の蒸気は、職場の空気中に存在し、これを作業者が呼吸することでばく露されます。
従って、蒸発を少なくすることが、健康障害防止に非常に有効な対策となりますので、法令上でも、蒸発量(消費量)が少なければ、一定の場合は、一部適用除外が受けられるようになっています。(有機則第2条・3条 特化則第6条)

蒸発量(消費量)を少なくする対策例としては、次のような方法があります。

(1) 取扱い温度(反応温度等)を低くする

わかり易く「水」の例でみますと、水温と水蒸気圧(水蒸気の量)の関係は、下記のとおりです。

水温 10 20 40 60 80 100 ℃
蒸気圧 12 23 74 199 474 1013 hPa

 100℃では、水は全部水蒸気になって蒸発してしまいます。
80℃のお湯は、水蒸気量が多く出ていますので、白い水蒸気が見えます。

 20℃の水では、水蒸気の量は少なく、目では見えません。
このように、水温を低くすれば、水蒸気としての蒸発量(消費量)が減少します。
化学物質も同じですので、取扱い・反応温度を低くすることが蒸発を抑制する有効な手段となります。

(2) 発散面積を小さくする

 蒸発量(W)は、蒸発面積(A)に比例するので、蒸気が発散する面積を小さくすることで、蒸発を抑制できます。

蒸発量(W)
=係数×(液温での飽和蒸気圧―液面空気中の蒸気圧)×蒸発面積(A)

 お皿に入れた水と、徳利に入れた水の、どちらが蒸発しやすいかを考えれば分かります。
道路の水溜まりの水は、箒で履いて、路面一杯に広げる(蒸発面積を広げる)と早く乾きます。

(3) 取扱時間を短くする

 取扱時間が長いほど蒸発量が多くなるので、作業の順序変更、前後の工程の見直し、レイアウトの変更等で、短時間で作業が終わるように工夫します。

(4) 取扱量を少なくする

 例えば、ウエスに溶剤を付けて油汚れを払拭する作業では、極少量の溶剤で十分に拭き取れます。
しかし、効率よく拭こうと溶剤が滴る程多く付けている場合がありますが、滴り落ちた溶剤は、蒸発して 職場環境を悪化させます。
また、事故等でこぼれたことを考え、作業場に持ち込む化学物質の量を、必要最小限にします。
必要最小限の取扱量にすることで蒸発量(消費量)を少なくすることができます。

次回は、密閉系(密閉化、隔離)での取り扱いによる飛散防止を説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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